ゆめだるま



「カサリ」小さな音で、アンジェはお昼寝から目がさめました。
何の音かしら?ふっと部屋の中の小さな窓辺に目をやると、何か白い紙が
窓の桟に挟んでありました。
アンジェは、寝ぼけまなこで窓辺に近寄りその白い紙を取って広げました。
そこには、

「聖地恒例 第236回 納涼夏祭り!!本日開催。」
という赤い大きな文字が躍っていました。

「夏祭り?へぇ〜、聖地では四季がないのにこんなことするんだあ。」
お昼ねで少しボサついてる栗色の頭をぽりぽりかきながら、アンジェは
ベットの上へ寝転がり、あお向けになってその紙を読み始めました。

「ふう〜ん、、、縁日みたい!綿菓子や金魚つりもあるのかあ〜。
アンジェはごろりと姿勢を変えてうつ伏せになると、
「どうせ暇だし、行ってみようかなあ?」とつぶやくと、、、。
(ピンポ〜〜〜ン♪)
と、お隣のレイチェルのお部屋からチャイムの音がかすかに聞こえてきました。
アンジェは、がばっ!と飛び起きて、壁に耳を押し付けます。
「、、、で、レイチェル、、、私は、、、なのだ。」
う〜ん、いまいちよく聞こえないので、アンジェはガラスのコップを壁に押し当ててみました。
空気の振動が震えてうまく声がアンジェの耳に届きます。

レイチェル:「ええ〜ん、でもぅ、私ぃ〜ジュリアス様のことも好きだけどぉ。
       クラヴィス様もクールで素敵だしぃ。レイレイ困っちゃう〜♪」

ジュリアス:「そんな、、、お前は私を選んではくれぬのか?そんなにお前は
       大バカ者だったのか?!」
	      
クラヴィス:「ジュリアス、なんてことをっ!!我が愛しいレイチェルに向かって
       大バカ者とはなんだっ!?
	      
ジュリアス:「お前なんぞを選ぶならば、という仮定だっ!
       まだ、お前を選んだわけではないからレイチェルは、聡明だ。」

クラヴィス:「ふっ、そう必死になるところを見ると、、、お前は自信がないと
       みえる。人をこきおろすほど心に余裕がないと見えるな?」
	      
ジュリアス:「にゃにいおうっ!?」

レイチェル:「きゃあ〜っ!おふたりとも、私の為に争いなんてやめて下さいっ!
       レイレイ、悲しくなっちゃう〜♪(ちっとも悲しくない)。」	      	      
	      
どおんっ!どおんっ!どおんっ!

レイチェルの部屋の隣から明らかに壁を蹴っている音がしました。
そして、「ちょっと、静かにしてくれないっ!?今、
育成のこと勉強してんだからさっ!邪魔しないでくれる??」
とアンジェの甲高い声が聞こえてきました。
呆然とするレイチェルの部屋の中の三人。そうして、とうとうガラスのコップでも
聞き取れないようなぼそぼそ声がして、それからしばらくするとレイチェルの部屋
から、ふたりが出てゆくドアの音がしました。

アンジェは「ちぇっ。」と舌打ちしながら、ガラスのコップを放り投げると
ベットの上へ寝転がりました。
「ひとりぐらい、こっちに来てもいいだろうに。減るもんじゃああるまいしっ!」
アンジェは悔しいっ!と言わんばかりに叫んで、先ほど読んでいた紙をびりびり
に破きました。
「、、、気分転換にでも、夏祭りに行ってみようか?ここの守護聖たちなんか
よりもっとイイ男が居るかもしれないしね♪」
アンジェは黄色いミニスカートの上から自分のお尻をかきかき、シャワー
ルームへと向かいました。

いつ頃からだっただろう?アンジェがこんな乱暴でガサツな女の子に
豹変したのは?もうあまりにも女王候補試験が長引いていて、分からなく
なっています。当初は、可憐な気品のある少女だったのですが、
後もう少しで臨海を迎えようとしたある日、突然口調が乱暴に
なってそれから育成を怠けるようになり、毎日くる日もくる日もだらだらと
部屋の中で過ごすことが多くなってきて当然、育成していた惑星は
どんどん自破壊、破壊されて今では、レイチェルが育成した惑星たちが
光輝いているのです。

「ふふ〜ん、私の制服以外のこんなかわゆい姿を見れば、いやでも守護聖
たちだって無視はできないだろう?わーっはっはっは!!」
アンジェはお母様に送ってもらった小花のゆかたを着て、サッサと部屋を
後にしました。

聖地の庭園はいつもは静かな小鳥の囀る声が響いているとこですが、今は
笛太鼓のお囃子で、にぎやかに盛り上がっています。歩道の両側にはずらりと
出店が並び、いろんな灯りでお客を待ちかまえていた。
「ふうん、東洋っぽい雰囲気ねえ〜。あのまるい紙でできてるランプ、
きれいだわ〜♪やっぱり浴衣着て来てよかった!」
アンジェははしゃぎながら、人ごみの中へと紛れました、、、。

「もしもし、そこゆくお嬢さん。」アンジェは呼び止められて振り向くと
そこには、他の出店の灯りにはさまれ、その一角だけ暗いなにやら
占い師のような老女がぼんやりと暗闇に浮かんで見えました。
老女の前には小さな四角いテーブルが置いてあり、丸い安っぽいイスが
置いてあります。

「あなた、呪われているようですね?あなたを呼ぶ声がずっと私には
聞こえてきます。」
老女は、あまり口を動かして言っているように見えません。テレパシーの
ようにアンジェの頭に老女の言葉が響きます。不思議な感覚。
「呪われている?私のこと?」
アンジェはせっかくお祭りでうきうき気分を害され、あからさまに顔を
歪ませました。
「はい、あなたです。本当のあなたが、私を呼んでいるのです。そして
あなたを、取り戻してほしいと、、、。」
「なにいってんの??私、急ぐから、、、。」
アンジェは気味悪くなって、急いでその場を離れるように歩きだしました。
しばらくするとまた、
「もしもし、おじょうさん。」と、後ろから声かけられました。
アンジェがゆっくりと振り向くと、、、そこには先ほどの老女が佇んでいます。
「そこへお座り。」
老女の言葉に抵抗できないかのようにアンジェの体は、老女の前にあるイス
へ腰掛けました。
「さあ、この水晶をようくご覧。この中に、あなた、、、本当のあなたがいるのよ。」

アンジェは透きとおった冷たい光を放つ水晶を見つめました。
すると、その中に、、、自分が居る!!
とても悲しげに水晶の中のアンジェは見上げました。

「あなたは呪いをかけられて、ある少女の夢の中で存在しているんですよ。
夢はその少女のものだから、その少女の意のままにできる。
例えばあなたを恨んでいるならば、あなたを嫌な目に合わせるとか、
、、、殺してしまう事もできるのです。」
「こ、殺す?私が殺されるかもしれないの!?」
老女は一呼吸おいて、
「、、、かもしれませんね。あなたの周りは不幸なことが起きすぎている。」

「そういえば、、、。」時々、自分でも嫌なくらい自分らしくない振る舞いで
自己嫌悪に陥ることが多くなってきている気がする。その結果、守護聖様や
協力者たちからも嫌われているのは知っている。それを心の何処かでひどく
気にしているが、なぜか言葉や態度を改めることができないのだ。
誰かに操られているような感じで、、、。

「本当のあなたは、”ゆめだるま”というだるまに閉じ込められています。
そのだるまは、あなたに敵意のある少女の部屋の何処かにあります。さあ、
早く探し出さないと、本当のあなたはこのままその少女の夢にのみこまれて
現実世界へ戻ることができなくなりますよ。」

アンジェはしばらく考えこんでいまいしたが、まっすぐにレースを被った老女を
見つめると、
「ありがとう、お婆さん。私、思い当たる人がいます。私、探し出します!
必ず自分を見つけ出します。」
そう力強く言うと、走り出した。

「ふうっ。よかったわ、間に合って!これで、アンジェも解放されるでしょう。
ったく、まあだ、ロザリアったらあんな物とっておいたのねっ。きっと、昔の
彼女にレイチェルの姿が映ってゆめだるまを、レイチェルに渡してしまったん
でしょうね、、、困った人。アンジェ、、、コレットが、うまく処分してくれる
といいんだけど。」

黒いレースを頭から取り金色の髪が広がると、いつの間にかその老女は
消えた。

「どこ?何処にあるの?」
アンジェはレイチェルの部屋の窓を大胆に割って、中へ侵入しました。
中にはそんなに隠せるような大きな家具などありません。
戸棚はもちろん、机のすみずみまで探したのですが、、、。

「どこ?どこにあるの?ゆめだるま、、、。」
そうつぶやいた時です。
ドレッサーの上に置いてあるレイチェルのカチューシャの中から黒い
親指大の小さな塊がふわりと浮かびあがり、すーっとアンジェの手のひら
の上へゆっくりと落ちてきます。

「こ、これがゆめだるま?」
アンジェは手の中にある黒い小さな塊を覗き込みました。その時、
だるまの目が赤く光りだしたのです!

「我が名を呼びし汝の願い受け取ろう。憎い相手が手も足もでないよう
夢の中へ引きずり込んでやろう。やがて夢が現実になるまでに、、、。」
地の底から這い上がってくるようなその低い声に体を恐怖でアンジェは
震わせていました。

「なっ、何してんのよっ!?あっ!それは私のゆめだるまっ!
返してっ、返してよっ!!」
レイチェルがアンジェに掴みかかります。
「我が名を呼びし、、、。」
また、だるまが先ほど言った台詞をレイチェルに言います。どうも、
”ゆめだるま”と呼んだ者の言う事を聞くようです。

「ゆめだるまっ、、、ぶつぶつ、ゆめだるまっ!ゆめだるまをこの世から消してっ!」
アンジェは、レイチェルに片腕を折られそうになりながら必死に叫び
ました。
「、、、分かった。ゆめだるまを消す!」
だるまは全く感情の無い低い声でそういうと、ふたりの目の前で「ぱあん!」
と割れました。

「いやあああああっ!!」レイチェルが泣き叫び、アンジェの視界が歪み
立っていることさえもできなくなってその場に倒れこみました、、、。



「やあ、アンジェリーク!やっとお目覚めかな?」
アンジェリークが目を覚ますとそこは、見慣れた自分の部屋の中でした。

「私ったらいったい、、、。」
「今日は女王謁見の日だろう?あんまり遅いから心配で私がお迎えにきたんだ
よ♪可愛い寝顔をもう少し眺めていたかったけど。そろそろ行かないと
ねん♪」
オリヴィエは悪戯っぽく笑って見せます。

「オリヴィエ様ったら!あ、でも、あのう、今はどちらが育成がうまく
いっているのでしょうか?」
「へっ?!なあに言ってんの?最初からあんた一人で試験を受けてるじゃない?
だから”どちら”なんてことないんだよう?」
「えっ、、、ああ、そうでしたね。」アンジェはひきつった笑顔で答えました。

アンジェはゆめだるまを探し当てたとき、小声で
「レイチェルなんか嫌い!消えろ!」と
ぶつぶつ言っていました。普段のアンジェならばこんなこと言ったり、
おもったりしないのですが、、。

レイチェルの夢は、何歩もリードしているアンジェの性格を悪くして、
守護聖様方に嫌われればいい!とゆめだるまにお願いしていたのです。
その為アンジェはひどい性格になり、レイチェルに対してあんなひどい事
を言っていたのです。

「すごいなあ〜、こうなるのかあ。」
アンジェはびっくりしましたが、まあ、これもレイチェルの自業自得でしょう、、、。


END





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