奥様劇場 「明日天気になあれ」 大猿の巻


その二.
「あおお〜〜ん」

何処かで野良犬が叫ぶ声が丑ミツどきの聖地八百八町に響き渡る。
しんと静まり返った町の中を3つの黒影が走り抜ける。
角ばった黒い頭巾を頭からすっぽりと被り、鋭い琥珀色の瞳をのぞかせている
ヴィク座衛門。
紫色の布をなぜか「ねずみ小僧」スタイルに鼻の㊦で結んでいるクラ乃介。
水色に蝶が飛んでいる手ぬぐいを被っているオリヴィエ姐さん。
この三人が向かうところはひとつ。聖地の政治を司る王立研究所へ闇に紛れながら
足早に向かっていた。

「一体、研究所に何があるっていうんだろうねえ?また、南蛮から密輸した
珍しい動物でも居るのかしらん?」
オリヴィエ姐さんは語尾を上げて言った。

「たぶんな。それを俺達にどうにかして、救い出して欲しいんじゃあないかな?」
ヴィク座衛門の声がそれに答える。

「、、、まさか、罠じゃあ、、、。」
クラ之介は、美しい眉をひそめる。


「ジュリ之進は?」オリヴィエ姐さんが、足を休めることなく走りながら目の前を走る
ヴィク座衛門に聞く。

「先に、王立研究所へ行って門戸を開けてくれる手はずになっている。
お役人さまだからな、忍び込むのはた易いことだろう。」ヴィク座衛門は辻を左に
曲がろうとする。

「そうね、、、あっ!ちょいと、ヴィク座衛門。そっちじゃないよ、こっち!」
オリヴィエ姐さんが立ち止まって手をひらひらと動かし手招きする。
「ああ、すまぬ。」ヴィク座衛門は、頭をかきかき引き返した。
「いつもそなたはツメが甘いから心配だな。」クラ之介は鼻がつまったような声で
ぽつりとつぶやいた。

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「んふふ〜♪ほうらじっとしててよう、エルンストさあん!」
「いや、すいません。私はこういうことをされるのは、初めてなもので。」

赤い髪をみつあみにした幼い少年とも少女ともつかぬ子供が、宇宙で天才、
優秀と誉れ高いエルンストの髪をシャンプーしていた。
エルンストはシャンプーハットを被り、大人しくビニールが敷き詰められた部屋の
中央で風呂椅子の上に座り、その子供に頭を泡だらけにされていた。
エルンストの着ている服も子供が体に巻くように着ている布もシャンプーの泡で、
びしょびしょだ。
その部屋にはなぜかバカでっかい水槽が置いてある。水槽の中には熱帯魚や
こんぶが踊り、水面にはおもちゃのあひるさんや、水鉄砲が浮いていた。
「ほうら、ふじさーん!富士山をエルンストさんの髪で作ったよ〜。うっきゃ〜。」
赤い髪の子供は、大はしゃぎだ。


エルンストはある日、研究所部長から呼び出された。
「エルンスト君、今日きてもらったのは他でもない。実は研究所所長からの
極秘命令がだされた。これは、所外はもちろん女王がおられる聖殿関係者
にも口外してはならん。いいかね?」
課長は自分よりも優秀なエルンスト之丞をこのときとばかりに、すごんで睨みつけた。
「はい、分かりました。それで、私は何をしたらよいのですか?」
エルンスト之丞は少し眼鏡をずりあげると、「ごくり」と生唾を飲み込んだ。
「説明は歩きながらしよう。これは君のIDカードだ。これを使って奥の部屋へ
行こう。では、行こうか?」
課長はくるりと背をむけ、書棚の本を一冊ぬくと、書棚がふたつに分かれ、
その奥に廊下が現れた。
「さあ、行こうか?」課長はにやりと油ぎった顔を歪ませてエルンスト之丞に自分の後を
ついてくるよう促した。

冷たい廊下に二人の足音がコツンカツンと響く。
「こんな所があったとは、、、。」
「、、、エルンスト之丞君、今回の任務は他の業務と並行してやってくれたまえ。
この任務には期間がある。2週間だ。2週間のあいだある生物の生態を観察
して欲しい。分かっているだろうが、極秘に頼むぞ。さあ、着いた。
この部屋はIDで入ってくれ、、、さ、中へ。」
ぴっ、と部屋のカギを開けると、、、そこには一面にビニールが敷き詰めてあり
中央には、バカでっかい水槽がありそのなみなみと満たされている水の中から
、、、ぱしゃんと顔がでてきた。

「???こっ、これは?」エルンスト之丞は思わずサササと後ずさる。

「ねえ、おじさん、いつになったらサラお姉ちゃんに会えるの?
僕どうしてここにいなくちゃいけないの?もう、退屈で嫌になってきたよう。」

「ごめんごめんね。もうすぐサラお姉ちゃんに会えるからね、もう少しの我慢
だよ〜。ほら、今日は君のお友達を連れてきたよ!」
そう言うと、課長はぐいぐいとエルンスト之丞の腕をひっぱり、水槽の裏にたてかけて
ある脚立をエルンスト之丞に無理矢理上らせ、「どんっ。」と、エルンストの背中を押し
た。

「うわああああっ!?」ざっぱ〜ん、、、、。

哀れエルンスト之丞は水槽の中へ、、、、。
「こ、これはいったい、、、ぶくぶくぶく、、、。」
「うわ〜、あなたも僕と同じでお水好き?じゃあ一緒に泳ごうね〜♪」
可愛らしい八重歯をのぞかせて、笑いながらエルンスト之丞に抱きつく子供。

「なんなんだーーーっ!?」エルンスト之丞は叫びながら、水槽の底へと
沈んで行った、、、。


「なんだか水音が聞こえてこない?ちゃぷん、ちゃぷんて。」
オリヴィエ姐さんは、はた、と走る足を止めて冷たく遠く続く
廊下の真中で、耳を澄ました。

「ああ、確かに聞こえてくるな。どうも、この廊下の先から聞こえてくるようだ。」
クラ乃介は、そういいながら長い黒髪を後ろひとつに結び、先頭を走る。

「一体何があるんだ?この先に、、、。」
ヴィク座衛門たちに緊張が走る。

三人がつきあたりにでると、そこには頑丈そうな鉄板の扉が立ちはだかっていた。
しかし、かすかに扉が開いている!

そっとクラ乃介が中をのぞくと、、、中は暗くて何も見えなかった。
ただ、部屋の中央のバカでかい水槽の水面がゆらりと揺れているのが、
なんとなく水音で分った。

「私たちの気配を感じて隠れているのか、それともここから去ったのか?」
クラ乃介はじっと様子を伺い、もっと中の様子を見る為に、
少し右肩をその部屋の扉に近づけると、、、

「何をしに来たっ?!このねずみっ!!」
とエルンスト之丞が叫ぶと赤い髪の子供は震えながら、灯りをつけた!
クラ之介は首にぎらりと光る銀色のメスをつきつけられている。

「、、、その手を離せ。」いつの間にかヴィク座衛門が、エルンスト之丞の後ろを
とり彼の首に長刀を当てがっている。
オリヴィエ姐さんは、赤い髪の子をそっと抱いて、灯りを消した。

「怖がらなくていいのよ、あんたを助けに来たんだから。」
オリヴィエは濡れた髪を撫でながら言う。
「僕を助けに?」
子供はきょとんとした顔でオリヴィエやエルンスト之丞を後ろ手に捕まえる
ふたりの男達を見まわす。

「助ける??」エルンスト之丞も首を傾げた。

「いったいどういうことなんでしょうか?あなたたちは、何者なんです?」
エルンスト之丞が叫ぶと、ヴィク座衛門、クラ之介、オリヴィエ姐さんは
お互い顔を見合わせてしまった。



「どうだね?例の人魚は元気にしとるかね?」
でっぷりと太った研究所所長はタバコの煙をくゆらせ、先ほどから
両手をこすり合わさんばかりに意味もなくへこへこと頭を下げている
部長を見下すように聞いた。

「はい!エルンスト之丞くんにお世話させております。いたってお元気で
ございます。」

「そうか、、、どおれ、今夜あたり可愛いあれの顔でも見に行くか。
わしもここのところ忙しくて、ここに寄れなかったからな!うはははっ。
ここへ運びこんだもののまだ、ゆっくりと鑑賞しておらんし、、、
今夜はじっくりと、、、楽しもうかのう。うはははっ!!」
所長はそう言ってタバコを捨てると、本棚の中の1冊の本を
引きぬいた、、、。


続

















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