夜明け



  暗い部屋の中にぽっと小さな黄色い灯がともる。白い煙を天井に向けて男が吐くと、
 「ううーん。」と男に背を向け眠っていた女がうめき、目を開けた。
  
  「すまない、起こしたかい?」
  
  「いいのよ、、、また、黙って行くつもりだったんでしょう?悪い子ね。」
  
  「悪い子か、、、ふっ。」
  
  「ねえ、新しい女王候補ちゃんとはうまくいってんの?」
  
  「、、、あの、ションベン臭いお子ちゃまのことか?」
  男は、苦笑いして初めて自分の執務室へやって来た栗色の髪の少女のことを
  思い出した。緊張していたのか、おどおどとしていて絨毯の重なり合う所で
  つまづき思いっきりオスカーに白のスキャンティーを見せた女王候補。
  泣きながら執務室を出て行き、それっきりオスカーの前には姿を表さない。
  
  「どうも、俺は嫌われているようだな。」
  
  「そんなことはないでしょう?あなたが女を愛さなくても、女はあなたを
  愛さずにはいられないわよ。どんな子供でも女だったら。」
  女は細く長い腕をオスカーの首に巻きつけると、彼の頬に軽くキスをした。
  
  「俺はいつだって真剣に君を愛してるぜ。」
  
  「、、、かわいそうなヒト。あなたは言葉の虚しさを知らないのね。
  そうやって気が付かないふりをしていないとあなたは、生きていけないのね?」
  女は形の整った眉をひそめて言った。
  
  「お前は、、、。」
  オスカーはその燃えるような真紅の髪とは対照的に冷たいアイスブルーの瞳に
  更に深い影を落として、女に言った。
  
  「お前は利口だが、、、馬鹿だな。」
  
  
  宿を出ると幾らか朝日がでて辺りは薄明るくなってきていた。
  
  「もう、夏も終わりですねえ。朝の風がすっかり冷たくなってきましたねえ。」
  「ええ、本当にねえ。」
  軒先で老婆たちがそう話しているのを、オスカーは聞きながら
  「夏か、、、俺の生まれた惑星にも四季があったな。」
  そう思い切なくなる気持ちを振り払うかのようにひっそりと人気の無い方角へと
  顔を見られないように歩く。
  
  「ぽつん」急に小さな雨粒がオスカーの手の甲に落ちてきたかと思った瞬間、
  ザーっと雨が激しく降り始めた。
  聖地では感じられない水の心地良さをしばし黒い空を見上げ雨の感触を楽しみ、
  それから足早に歩き始めた。
  
  時空回廊へなんとか誰にも気がつかれず着き、聖地へとたどり着いた。
  
  聖地は暖かな明るい日が差し 、小鳥がさえずりいつもの穏やかな、、、退屈な風景が
  広がっている。
  ずぶ濡れのオスカーは、森を抜けてなるべく他の守護聖たちに出会わないように
  私邸へと向かった。
  
  「オスカー様?」
  そう声をかけられビクッと両肩を上げたオスカーだったが、いつものように腕組をして
  後ろを振り返った。
  
  「なんだ、ヴィクトールか?」
  
  そこには精神の教官、ヴィクトールが立っていた。
  
  「はい。その、、、どうしたんですか?その格好は?ずぶ濡れではありませんか!?」
  
  「ああ。」
  
  「また、下界へ行かれたのですね?」
  
  「そうだ。悪いか?」
  
  「いえ。」
  
  「ふっ。精神の教官様は、女遊びをするような俺にはそんな顔をしてみせるんだな。
  俺を哀れむか?」
  
  「、、、。」
  
  「お前たちは女王候補試験が終われば、故郷の惑星にご帰還できるからいいが、
   俺たちはサクリアがある限りこの聖地に留まらなくてはいけないのさ。
    いつ、果てるともわかぬこの力の為にな。こう長く聖地に居ると体が腐ってしまう
    からな〜。こうしてぬけだして下界へと遊びにいかんと、もたないのさ。
    自分が生きているのか死んでいるのか分からなくなる、、、。」」
    オスカーはおどけた調子で肩をすくめて見せた。
    その様子をヴィクトールは黙って見つめている。
    
   「そんな目で見るなよ。まっ、守護聖様も人間なのさ。わかったか?、、、っておいっ!」
   その時、ヴィクトールは何を思ったのかオスカーにいきなり抱きついてきた。
   
   「何をするんだ?離せっ!?」
   体を突っ張り、ヴィクトールの腕の中から抜け出そうともがくオスカー。
   しかし、ヴィクトールはオスカーの両肩を抱きオスカーの右肩の上に自分の顔を
   のせている。
   
   「おい、俺はこんな趣味はないぞ。」
   
   「それは、俺も同じです。」
   
   「じゃあ、なぜこんなことするんだ?お前まで濡れてしまうぞ?」
   
   「、、、。」
   
   「おい、聞いてんのか?」
   
   「自分でも分からないのですが、なんだかこうしないとオスカー様が
   消えてしまいそうで、、、。」
   
   「はあっ?そんなことは女口説く時に言えよ!」オスカーは唇の端で笑う。
   
   「そういうものですか?」ヴィクトールは少しおどけた調子で聞く。
   
   「ああ、女は泣いて喜ぶぞ。」オスカーは答えながら、硬い胸の筋肉に体を傾けている。
   なぜか、、、こういう広い胸の中にいると安心できる
   遠い昔、同じような気持ちになったことがある。
   いつの日のことだったろうか?緑萌える草原の中、生まれ育った故郷の美しい風景、
   どこまでもどこまでも大きな背中を追いかけていたあの日、、、。
   
   「お前は私を越えたんだな。」別れの日、ぽつりと大きな背中が呟き
   ゆっくりと俺を振り返って俺の肩を抱いた。
   胸に熱いほど流れ込む愛情、見返りを求めない愛。
   両肩の力が抜けて、ふっと柔らかい顔になるオスカー。
   
   「はははっ。」ヴィクトールの笑う声と共に彼の息がオスカーの耳元をくすぐった。
   と同時にオスカーの遠い過去から引き戻す。
   ごつい武骨な大きな硬い体は決して心地よいとは言えないが、なぜかすっぽりと
   包まれているようで居心地がよかった。
   オスカーは自分が抱きしめることはあっても、抱きしめられたことはなかった。
   、、、あのヒトと女以外に。
   
  「もういいだろう?そろそろおじょうちゃん達が、俺会いたさにやってくる時間だ。」
  
  「ああ、申し訳ありませんでしたっ!」ヴィクトールは急いでオスカーから離れる。
  
  「ふっ、気に入ったぜヴィクトール。今度お手合わせ願おうっ!」オスカーはひらりと
  森と湖を区切る柵を飛び越えウィンクしてみせると、つないでいた愛馬に跨り去って
  行った。彼の背中を朝日が照らす。
  
  ヴィクトールはオスカーが一瞬見せた子供のような顔を思い出しながら、
  ゆっくりと学芸館へと歩き出した。
  
  END
  
  
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  すいませ〜ん、えっちじゃなくてぇ〜!!でも、書いてみたかったんです〜。
  ホラ、ヴィク様&オスカー様って軍人つながりだしぃ〜!?
  なあんてことない話ですいません。
  
  どうしてもヴィク様って「お父さん」てイメージがつきまといますわ〜♪
  
  最後まで読んでくださってありがとう!!(^0^)
   
   
  
  



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