ヴィクトール&ティムカ

静かな、静かな聖地の夜。ウォーキングするおばちゃん達の
おしゃべりや、暴走族のまき散らす爆音もない、非常に
うらやましい静かな夜。某国の若き王太子は眠れなくて、
ベットの上にうつぶせになり顎を枕の上に乗せ、なにやら
ぶつぶつと同じ事を繰り返し呟いていた。

「マルセルったら、自慢気に話ながら僕の反応を見てたな。
、、、僕が、ヴィクトール様の事を気にしてるの知ってて。
なんて、意地悪なんだろう、、、。」

今日のお昼3時、マルセル、メル、ティムカのお子ちゃま
三人組は、占い館でお茶会を開いていた。
その時、マルセルが、代々緑の守護聖に伝わる花の話を、
していて、自分が花になったのどうのこうのと、言っている
のを、ティムカは、「白昼夢でもみてたんじゃあないの?」
と、心の中では嘲笑していたが、そこは品位の教官、そんな
ことはおくびにも出さず、「うわぁ、すごいですねえ!
さすが守護聖様だなあ。」などとあいづちをうっていた。
半分、聞き流していたのだが、「ヴィクトール様の、、、」
と、いう所でティムカの耳がピーンと立った。
マルセルが少し興奮気味でまくしたてる。
「、、、でね、彼の言葉に感動しちゃってえ、思わず抱きついた
んだ。すっごく大きくてたくましい首に、、、。」
ティムカは途中からマルセルの話を聞いていなかったので、
なぜヴィクトールに抱きついたのか解らなかった。余計に
気になって仕方がない。でも、今更聞き返すのも失礼だし。
「ヴィクトール様て、顔に傷があるでしょう?だから、初め
は、怖い感じがしてたけどお仕事以外で、お会いすると、
とてもきさくに声かけてくれるし、優しいよね!」
マルセルは大きなすみれ色した瞳を、くりくりさせて言った。
メルはあまり関心がないように、「うん、お父さんみたい!」
と、口にクッキーをもごもごさせて言うと、なぜかムキに
なって、マルセルが、「いや、お兄さんみたいだよ。ねえ、
ティムカ?」マルセルは、テーブルの上に両ヒジをついて
手のひらを組みその上にあごを乗せたポーズで、ティムカに
言った。その少しヒトを見下ろしたような態度にむっとき
たが、そこは品位の教官、にっこり笑いながらも
「マルセル様、お食事中にひじをついては、お行儀が悪い
ですよ?」
と、言った、、、。

ヴィクトールのあの大きな男らしい鍛えられた体も、魅力
のひとつだが、自分を子供としてではなく、ちゃんと対等
にみてくれ、執務についている時は厳しいが、それ以外に
なるととてもきさくに声をかけてくれ、弟のように、
可愛がってくれる。ので、ついついティムカも甘えてしまう
のだ、、、時を同じくして聖地に来た、というのも親しみを
もつひとつの要因だ。

あの百獣の王を思わせるライオンのような髪、広い肩幅、
鋭い胡狛色をした瞳。時折みせる悲しげな横顔、、、。
「ああ、もうだめだ。」
ティムカは、黒地に赤とオレンジ色の細かい刺繍が施してある
ガウンのような少し大きめのものをはおると、庭園へと
出て行った。

月明かりの中、ティムカはどうしようもない切ない想いを、
抱えて噴水のふちに、腰かけた。
「僕は、彼に何を求めているんだろう、、、。」
ティムカは自分の気持ちに戸惑い、それをふり払うように、
かぶりをふった、、、。ふと仰ぎ見ると、真っ暗な夜空に
たくさんの星たちがきらきらとまたたいている。
「きれいだなあ。故郷の星では、もっと星が降るように見えて
手が届きそうなくらいだったのになあ。お父さまや、お母様
弟達は、お元気なのかなあ、、、。」大きな黒い瞳から、
ひとすじの涙がこぼれる。いつ終わるとしれぬ女王試験、
子供だからと甘えられない。自分の指導如何では女王候補達
の試験にどんな影響を及ぼすか。始めのうちは、楽しんで
いたのだが、、、。いつもだったら、疑問に答えてくれる父
が側にいてくれたのだが、、、。ティムカは、熱帯の美しい
青い海とイルカたちと遊んだ、子供らしい自分を思い出し
また、涙が、、、。

「おい、そこに居るのはティムカじゃないか?」
ティムカが振り向くと、噴水越しにヴィクトールが歪んで
見えた。
「どうした?眠れないのか?はは、実は俺もなんだよ。」
ヴィクトールは、両手を寝着のポケットにつっこむと、
ふわりとティムカの隣に腰をおろした。
「きれいな刺繍だな。お前の国の民族衣装なのか?」
ヴィクトールは、少しティムカが着ているガウンの裾をあげた。
「え、ええ。、、、あの、なぜ、、、。」
ティムカは胸がどきどきしていて、どう振る舞えばいいのか
解らなかった。
「ん?ああ、、、。なんだか眠れなくてな。お前もそうか?
ティムカ。」
自分の名前を呼ばれるだけで、こんなに嬉しいなんて、、、。
段差のある肩を並べてヴィクトールを、こんなに近くに感じる
事が少年の胸を更に高鳴らせた。
「ええ。ここは、静かすぎて、、、。僕の星では、もっと獣の
声や、海の波音なんかが聞こえてきたんですけど。」
「そうか。ほんとうにここは、俺には静かで穏やかすぎて、
つい過去の事を忘れそうになるな。、、、つらいよ。」
ヴィクトールは眉をひそめて言った。
「過去をですか?あ、、、。」
ティムカはハッとして、口をつぐんだ。
「ごめんなさい。僕、、、。」
「いや、かまわないよ。災害から民を救った英雄として扱われ
ていた事もあったからな。まるで、民全員を助けたように
いわれていたからな。実際はたくさんの人達を助けることは
できなかった。全員、助けることは、、、。」
ヴィクトールの顔が悲しそうに歪んだ。
ティムカはそっと彼に青い鳥の羽根を差し出した。
「この羽根は幸福のお守りなんです。これを持っていると、
幸せになれるんです。」
ティムカはヴィクトールの傷だらけの手の平に羽根をのせ、
両手で彼の手を包んだ。
「災害で死んでいった人たちを思うと、自分だけ幸せに
なることはできない。」
と、ヴィクトールは言いたかったのだが、ティムカが涙を
こらえて瞳を大きく開き、口元をよこ一文字にしている様子
に気がつくと、少年の優しい気持ちが微笑ましくなって、
「ありがとう、ティムカ。お前は優しいな。」と言って、
ティムカの髪をくしゃくしゃと撫でた。
ティムカは、ハッとして、ヴィクトールの手を離し顔を真っ赤
にした。ヴィクトールに触られた自分の頭を、そっと自分で
触る。
「さあ、おかげで眠れるような気がしてきた。」
サッとヴィクトールが立ち上がると、
「あのっ、僕、もっとお話したいので、あなたのお部屋に行
ってもいいですか?」ティムカは思わずおおきな声で言った。
ヴィクトールは、一瞬驚いた顔をしたが、すぐに優しく微笑み
「、、、俺の話ばかりしてしまったからな。しかし、もう今夜
は遅いな。また、明日の晩にでもお前の話を聞こうか。
それでいいか?」と言うと、ティムカは、少し不満だったが、
またヴィクトールとふたりで会えると思い、首を縦にふった。
「じゃあ、お前の部屋まで送ろう。行こうか、ティムカ。」

夜空に輝く金の輪が、大きい影と小さい影を照らしていた。


be continue...

NEXT ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

てなわけで、これからふたりの物語?が始まります。
次回作は相当、えっち、、、にしたいなあと考えてます。
ああ、ベットシーンまで今回いけなくて、無念?!
またよかったら、遊びにきてね!


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