時の終りに


オスカー&アンジェ

アンジェはいつの間にか、眠ってしまっていたようだ。
目が覚め、ふと時計を見ると、もう夜中の2時をまわっていた。
アンジェは、ベッドから起き上がると、白いレースの
カーテンを左右に開け、テラスへと、出た。
そこには、懐かしい聖殿の庭園が月明かりに照らされて、
いっそう神秘的な雰囲気を醸しだしていた。
夜風がアンジェの頬を撫でてゆく。少しひんやりとした
冷たさが、心地よく感じられた。

アンジェは、目をつむり、大きく深呼吸をした。
昼間咲かぬ花たちの甘い香りが、微かに彼女の可愛らしい
鼻をくすぐる。
「明日で、ここともお別れ、そして、この宇宙と、、、
オスカー様とも、、、。」辛く長かった皇帝との闘いの日々
の中で、どんな時も、身を呈して、守ってくれた、
炎の守護聖、オスカー。あの強く自信にあふれたアイスブルー
の瞳で、自分をどれだけ励まし、優しく見守って、
くれただろう、、、。時折、本気とも軽口ともつかない
愛の言葉を告げる時に見せた、あの優しい笑顔、、、。
でも、もう彼とも自分が新しい宇宙へ帰れば二度と、、、
会うことは、、、。アンジェは、唇をかみしめて、うつむいた。

「よう!そこに居るのは、俺の天使じゃないか?そんな所に
いないで、その可愛い顔を見せに、この腕の中へ、舞い降りて
来てくれよ!」真紅の燃え上がるような髪のオスカーが、
ちらりと白い歯を見せて笑いながら、テラスの下で、
両手を広げて立っていた。
「あの、でも、、、。」アンジェは、愛しい彼に、突然会えた
喜びで、胸がどきどきして、口ごもった。
「大丈夫さ。俺の愛は、君を支えきれないほどヤワじゃない。
さあ、俺を信じて、ここへ舞いおりておいで!」
と、彼は言うと、更に腕を高くあげて、広げてみせる。
オスカーの瞳は、限りなく真剣で、優しかった、、、。
アンジェは、テラスの柵にあがると、その上に腰かけ、
そのまま前のめりになって、、、。
テラスから飛び降りるアンジェの姿は、月明かりに照らし
だされて、寝着の裾をふくらませ、まるで、月の妖精のよう
に美しく、ゆっくりと、、、次第に落ちる速度を増しながら
オスカーの胸めがけて、ドスンとおちた。
その衝撃で、オスカーも後方の茂みに、アンジェと共に、倒れた。
「あ、イテテテ、、、。ほら、な?君を、こうして抱きとめた
だろう?俺の愛の強さがわかったかい?」
「オスカー様ったら!」ふたりは、しばらく見つめ合うと、
小さく笑った。

「大丈夫か?ケガはないか?」オスカーは、アンジェを抱き
あげると、彼女の足元をそっと、地におろした。
「ええ、私はオスカー様が抱きとめてくださったから、大丈夫
でしたけど、、、。オスカー様は?」
アンジェは、まだ、自分がテラスから飛び降りたことが、
可笑しくて、クスクスと笑い、オスカーの頭についた
葉っぱを、懸命につま先立ちになりながら、取ろうとしていた。
その姿にオスカーは、胸がきゅんとなり、アンジェの細い肩
に抱きついた。
「アンジェリーク、俺は、お前の心の支えになれただろうか?」
「えっ、、、?!」
オスカーは、少し背をかがめると、アンジェの顔をのぞき込み
スラリと細い人指し指の甲で、アンジェの少女らしい少し、
ふっくらとした頬を、上から下へと優しく撫でた。
「オスカー様、、、。」アンジェは思わず、その彼の手を、
小さな彼女の両手で包み、アンジェは自分の片頬にあてた。
「アンジェリーク、実は、ロザリアが、いや、補佐官殿が、
アンジェの疲労が激しいようだから、今夜までは、この
宇宙に居ると、教えてくれたんだ。俺にだけ教える、と、
言ってな、、、。」オスカーの瞳は、悲しみの色をたたえつつ、
アンジェを、また、抱き寄せた。

アンジェも、彼の背中に手をまわし、ぎゅっと、抱きついた。
「アンジェリーク、行かないでくれ!どうか、このまま俺の
側に居てくれ。俺は、君がいないと、、、。」
「オスカー様、、、。」
オスカーの震える声が、アンジェの心に痛いほど、突き刺さる。
、、、でも、それは叶わぬ想いだと、ふたりは知っていた、、、。

オスカーは、アンジェの肩を抱き寄せると、ゆっくりと歩き
だした。アンジェは、今夜が、彼と過ごす最後の夜だと、
悲しい覚悟をしていた。
「今夜だけは、今という時間だけは、明日の事など考えないで
、俺のことだけを考えてくれないか?そうして、君の澄んだ
瞳にこの俺だけを、映して欲しい。いいか?絶対に、他の事は
考えるなよ?」オスカーはそう言うと、魅惑的な微笑を浮かべた。
アンジェは、顔を赤くしながらも、こくんとうなずいた。
そして、彼の言った言葉通り、彼の真紅の髪、たくましく
広い肩、彼女にそっと回された腕の体温、冷たい湖の底の
ようなアイスブルーの瞳を、自分の瞳にやきつけるように、
じっと、彼を見つめた、、、。

「少し風が冷たくなってきたな。どうやら、俺たちの事を、
聖地に吹く風さえも、ジェラシーを感じて、冷めさせようと
しているぜ!ふっ、そんなことをしても、無駄なのにな。
さっ、俺の屋敷に行こうか?」
オスカーは、そう言うと、アンジェを抱きあげ、彼の愛馬に
乗せると、彼も股がり、屋敷へと向かった。

「さあ、入ってくれ。」オスカーは、自分の部屋のドアを
開けると、アンジェを招き入れた。
「まぁ、、、!」アンジェは、思わず、口元に両手をあてて、
驚いた。部屋の中は、色とりどりのバラで埋めつくされていた。
白やピンク、黄色のばら、、、。
オスカーは、赤い薔薇の花を1本、アンジェに差し出した。
「俺は、薔薇の花が好きだが、赤い薔薇は、特別好きなんだ。
そして、俺の赤い薔薇は、、、君なのさ。」
オスカーは、言い終わると、アンジェの可愛らしい広めの
おでこに、そっとキスをした。
彼女は思わず、持っていた薔薇を握りしめると、「痛いっ!」
と、右手の親指を、押さえた。
放り捨てられた薔薇を、オスカーが、拾いあげて見ると、
抜いてあると思っていたトゲが、まだ残っていた。
「すまない。大丈夫か?」
オスカーは、片膝を床につけると、アンジェの親指を、
口に含んだ。
「だ、大丈夫です。トゲは刺さってないようですから。
あの、、、。」アンジェは、すっかり恐縮してしまい、
慌てて、彼の肩を掴んだ。
「すまない、、、俺の気持ちは、この薔薇のトゲのよう
に、君の気持ちを傷つけていないだろうか?
俺の、この想いは、君にとって迷惑なだけの、、、。」
いつもの自信家の彼には、似合わないセリフだった。
アンジェは、膝まづいているオスカーの頭を胸に抱き、
「いいえ、決して、そんなことはありません。私は、
あなたから、人を愛することを教えてもらったんです!
、、、オスカー様、愛しています、、、。」
涙を瞳にためながらも、しっかりとした口調で、言った。
オスカーは、アンジェの細い顎をとらえ、優しく口づけした。

ふたりは、生まれたままの姿で、見つめあっていた。
「アンジェリーク、月明かりのライトを浴びた、可愛い
顔を見せてくれ、、、。」
オスカーが、微笑むと、アンジェも恥ずかしそうに笑う。
やがて、オスカーの大きな手が、彼女の栗色のサラサラと
した髪を、愛し気に撫で、それから指先を、彼女の唇、
白い喉、華奢な肩、そして、小さなふくらみを捉えた。
少女は、小さく声をあげ体を震わせた。
「アンジェリーク、君の声をもっと、聞かせて欲しい。」
オスカーは、そう囁くと、アンジェのもっと敏感な所に、
指先を滑らせた。それに合わせるかのように、アンジェの
声も高くなる。ふたりは、何度も愛を重ね合った。
むせかえるような薔薇の香りの中で、、、、。

オスカーは、そっと部屋を出て行くアンジェを、背中で
見送った。しかし、これが、最後の別れだとは思って
いない。彼が、愛したものは、必ず手にいれるのだ。
オスカーは、剣を引き抜いた、、、。
FIN

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2000番げったー、ぴーさんに捧げる創作でした。
ごめんね、なんか、無理やり終わっちゃったあ。でへ。

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