WITH OUT YOU


ヴィクトール&アンジェ


「久しぶりの休暇だというのに、少佐は登山ですって?」
ヴィクトールの部屋のベットメーキングをしながら、メイドは、言った。
枕カバーを取り替えながら、少し年かさのメイドが微笑んで、「このお屋敷に帰ってこられて、
ずっとお仕事なさっていたからねえ。きっと、外の空気を吸いたくなられたんだろうねえ。」と、
小さく頷いた。
「でも、私には、わざとお忙しくしてるようにみえたわ。」
「、、、聖地という所で何か、あったんだろうよ。私達には関係ないけどねえ。」
年かさのメイドは、枕をぽんぽんと、叩いて、
「さあ、できた。おや?まだ少佐のことが気になるのかい?ほっほっほっ、もしかして、
あんた、少佐を好きなんじゃあ、、、?」と、もうひとりの若いメイドを、からかう
ような口調で言った。
「そっ、そんなこと!」と、若いメイドが、焦って答えた時、屋敷の呼鈴が、鳴らされた、、、。


「やはり、ここに来ると落ち着くな。」
ヴィクトールは、首もとの汗を拭いながら、山頂からの眺めを楽しむ。季節は初夏。
萌えるような青々とした葉が勢いよく、彼の瞳にとびこんでくるような景色に、しばらく見とれ
ていた。
「しかし、俺もまだまだ、大丈夫だな?以前と変わりなく一気に登ることができたぞ。ふっ。
体力は劣ってないようだ。以前と、何も変わらず、、、。」
ヴィクトールの胸がちくりと、痛んだ。そう、彼は聖地を出た後も、、、今でも、ひとりの
少女を忘れることが、できなかった。栗色の髪、青空のように澄んだ瞳の少女のことを、、、。

女王即位前日、アンジェリークは勇気をふり絞って、ヴィクトールの執務室を訪れた。
試験の間、何度となく訪れた彼の部屋のドアが、こんなにも重く感じたことはない。
いつも彼女を優しく、時には厳しく指導してくれた教官。
優しい彼の微笑みは、大きい体の威圧感さえ忘れさせてくれた。
「アンジェリーク。」と、呼ぶ低い声にずっと胸をときめかせていた。しかし、そう呼んでもらえ
るのも、今日が最後かもしれない、、、。アンジェは、震える声をなんとか抑えて
ドア越しに、「こ、こんにちわ、ヴィクトール様。」と、声をだした。ヴィクトールは、
その声に忙しく動かしていた手を止め、ツカツカと軍靴の音をたてながらドアに近づき、
アンジェを招き入れる。

「どうした?ん?何か用か?」いつもと変わらない彼の口調が、少しアンジェには、
冷たく感じた。
彼もうすうすは、分かっているはずだ。昨夜、臨界を迎えた球体がどうなったのか、
知っているくせに、、、という事はどういう意味をもつか、、、。
「あの、私、ずっとヴィクトール様のことが、、、。」
内気なアンジェは、初めて男性に告白をしようとしていた。
一刻も早く、この場を立ち去りたいという思いと、もっと彼の側に居たいという思いの
恥ずかしさで、彼女の心は、はちきれそうになっていた。
だが、ヴィクトールは、彼女の言葉を遮った。

「すまない。繊細なお前にこんなことを、言わせてしまうなんて、、、。確かに、俺はお前と
出会ったことで、人生が変わったような気がする。お前もそうだと、言ってくれた
時、俺は嬉しかったよ。お前が、そのはかな気な優しい笑顔をみせる度に、俺が守ってやる、
と思っていた。
運命を、ためらわず受け入れているお前の強い精神力にも俺は、救われたような気がする。
そして、自分のお前に対する激しい感情の揺れを感じたのも事実だ。久々にな。」
アンジェの顔がぱーっと、明るくなった。
「そ、それじゃあ、ヴィクトール様!私と、、、。」
「、、、すまない、アンジェリーク。お前の気持ちには、答えることはできん。」
「えっ?どうしてですか?ヴィクトール様?」アンジェは、呆然となりながらも、彼に問いかける。
「お前の女王候補としての努力は、並大抵なものではなかった。ほんとうに、よく頑張っていた と思う。ふらふらになりながらも、がんばっている姿は、やはり、新宇宙の女王と選ばれし者の 風格みたいなものを、感じた。お前の努力を無駄にしたくないんだ、、、。」 「、、、ヴィクトール様は、私のことが嫌いですか?」 アンジェはじっと、涙をためた瞳で彼を見上げた。 「ばかっ!そんなことあるわけないだろうっ!?好きだ。愛しているに、きまっているだろう?! 」ヴィクトールは、華奢な少女の体を抱いた。 彼の両肩が震えているのに、アンジェは気がつき、はっきりとした口調で、 「、、、分かりました。私、女王になります。」と、言った。 彼女の頬にひとすじの涙が流れた。 ヴィクトールは、草の上に寝転がると、空へとため息をついた。胸いっぱいに深呼吸をして、 瞳をつむる。 「アンジェリーク、、、。」彼が小さく呟いた時、山頂の下方> から、かすかに声が聞こえてきた。ヴィクトールは、ゆっくりと身体を起こし、耳を澄ます。 「、、、ルさまーっ!ヴィクトールさまーっ!」か細い少女の声が、山々に響きながら近づいて くるのが分かった。 彼は、飛び起きて、下方を見下ろすと、、、黄色いリボンが揺れているのが見えてきて、、、。 「ア、、、アンジェリークかっ?!」彼は、信じられない気持ちで、下方に向かって叫ぶと、 大きく手を振るアンジェの姿が見えた。それを見た彼は、転げ落ちるように斜面を、 滑り降りていく。その様子にびっくりするやらおかしいやらで、アンジェは登るのをやめて、 笑いながら彼を待った。 やっと、アンジェが居る山の中腹へ、ヴィクトールが辿りつくと、、、ふたりは、見つめ合い、 どちらからともなく抱きついた。アンジェの体はすっぽりと、彼の中に埋まる。 「会いたかった、、、ずっと、会いたかった。」涙で声を、くもらせながら、必至に少女は、 彼の広い胸にしがみつく。 「俺もだ、アンジェリーク。会いたかった、、、。」彼が、そう言いながら、もう一度、 強く抱こうと、アンジェの体をもっと引き寄せようとすると、アンジェは、するりと、彼か ら離れた。ヴィクトールは、困惑する。 「どうした?アンジェリーク?」 「うそ。」 「えっ?!」 「嘘でしょう?私に、会いたかったなんて!」 「なぜそんなことを言うんだ?俺の気持ちは、知っているだろう?どうしたんだ?」 「だって、本当に私に会いたいと、思って下さっていたら、 会いにきてくださるはずです!私の元に、、。」 「いや!それは、、、すまない。」 「私、いつかきっと会える日が来る、て、あなたが言ったから、ずっと、ずーっと待っていたん です!でも、、、。」 アンジェは、可愛らしくぷうっと、頬をふくらましてみせ、つま先立ちになり、ヴィクトールの 耳元で、「来てくれないから、来ちゃいましたっ!」と、小さく呟いた。 驚いた顔でアンジェの顔を見つめるヴィクトールに、彼女はいたずらっぽく、 「うふふ。」と、笑ってみせた。 その愛らしい笑顔は、試験の時の、、、ふたりが、出会った頃のままの可憐な笑顔だ。 ヴィクトールも、思わず微笑んだ。 「しかし、どうやってここに来たんだ?新宇宙の方は、どうした?」心地よい山々を渡る風に 吹かれながら、ふたりは、少しひらけた所に並んで、座った。 「女王になることを、辞退したんです。しばらくの間、レイチェルのお手伝いをしてて、 2日前にやっと生命体が、新宇宙に誕生して、それから王立研究院も建設され 一段落ついたから、、、来ちゃいました。」 「ちょ、ちょっと待て!なぜ、女王を辞退した?」 「だって、、、私には、あなたが必要だから、、、ヴィクトール様なしで私の人生は、 考えられないから。」 「アンジェリーク、、、。」 「私、ヴィクトール様が仰ったこと、解ったつもりでした。でも、やっぱり私は、、、。」 「すまない、アンジェリーク。」 「えっ!?」 「一度ならずも、二度までも、、、。お前を傷つけてしまったな。いいのか?こんな俺でも、、、 まだ、俺を愛してくれると言ってくれるのか?」 「そんなに謝らないで!私、なぜあの時、あなたが女王になれといったのか、分かった つもりです。あなたは、本当は、そうなることを望んでいなかったのでしょう?」 アンジェは、確かめるように彼の瞳をのぞきこんだ。ヴィクトールも、彼女 の瞳を優しく見つめ返す。 「俺は、お前を想う気持ちでは、誰にも負けん。しかし、俺はお前より、ひとまわりも年上だ。 お前にはもっと、これからの人生を輝いて欲しいと思ったんだ。まだまだ、先のあるお前に 俺はふさわしくないと、、、。だから、、、。」 「私が、ここに居たいと言ったら、、、どうなさいますか?ヴィクトール様。」 アンジェは、無骨で大きな彼の手を、彼女の小さな手で包み、自分の頬にあてた。 アンジェのやわらかな頬の感触からヴィクトールの心に、アンジェの暖かい気持ちが 伝わってくる。ヴィクトールは、そっと、アンジェの頬を傷だらけの大きな手で包み彼女の瞳を 見つめながら、 「もう2度と離さんぞ。いいな?アンジェリーク。」と言うと、アンジェはこくんと頷いた。 ふたりの間を、青く光る風がやさしく通っていった、、、。 ...その後、ヴィクトールの屋敷に戻ったふたりのこと.. 「ああ、参ったな、アンジェリーク。右側もやってくれ!」 「はいはい、後で私にも、、、お願いしますね?」 「ええっ?!お、お前にもか?いいのか?」 「うふふ、ヴィクトール様のお鼻の下が伸びてますよ?」 「なっ!?こらっ!こいつぅ。」 「きゃ〜、ごめんなさ〜い!」 アンジェは、ヴィクトールがやぶ蚊に刺された所に塗っていたムヒ軟膏を握り締めながら、 ヴィクトールに追いかけ回されていた...。 おしまい *********************************** ぶいちゃまから送っていただいたヴィク様の絵を見ていたら、できちゃったお話です。 私にしては、珍しくえっちなし。まあ、たまにはええでしょ?お客さ〜ん!? よかったら、また遊びにきてねっ!


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