第3回リアクション
R131
担当:渡辺豊
 音羽山山中、《鬼》の住処。夜ももう零時を過ぎ
た頃。
 四方を、人の顔が浄き出る石壁に囲まれた中。地
面に無造作に置かれている球の表面に、一本の亀裂
が走る。その亀裂から枝分かれするかのように細か
い亀裂が生まれ、次第に表面から細かい破片が剥が
れ落ちる。そして−
 パキ           
 乾いた音と共に球の表面に穴が開き、細かい牙を
持つ、小さな口が姿を現す。その口により徐々にそ
の穴が広がり、1分と経たないうちに約3備にもな
ったその穴から、体長16センチ程の体毛の生えて
いない小獲のような生き物が這い出る。
“キイ”
 その生き物は小さな鳴き声をあげると、地面に横
たわっている  生きている時は柄早と呼ばれてい
た−死体に向けて四つんばいのまま進むム
 その奥で、二つの赤く光るものが動く.
“ぐるるるるるるる‥…‥‥”
 低い唸り声と共に、一本の角を持ち、この間の(識)
との戦いで左腕を切り落とされ、片腕となった《鬼》
が起きあがる。
 それと同時に、死体がゆっくりと立ち上がる。そ
の目は−《鬼》と同様の、赤い光を放っていた。
“くるるるるる……‥・”
 石壁に囲まれた中で、《鬼》の唸りだけが響いた。


第3話:『異世界だって?』


●狩り
 音羽山から飛び立った鳥人を追って、猫目で口元
から八重歯の覗く白姫雪(しらひめ・ゆき)と、ど
ちらかと言えば可愛いという感を受ける竜崎渉(り
ゆうざき・わたる)の小学生男子の2人は近鉄大和
八木駅の近くを歩いていた。
「あの水晶は俺様のもんだぜ」
「やる気満々だね、雪」
 指を鳴らし、不敵な笑みを浮かべる雪の横を、渉
は少々離れて歩く。
 2人が駅から南へ歩いていると、急に背後からの
強烈な気配を感じる。
「ぐあ!」
男の叫び声と共に、至る所から悲鳴とわめき声が響きわたる。
「なに?」
 2人が後ろを振り返ると、四枚の翼を持つ鳥人が
青いシャツを着たまだ若い−二十歳かそこらの男
の胸に、先の尖った錫杖の様な物を突き刺している
のを見る。
「あ、あれ…‥‥‥雪、でたよ?」
「お、おう。み、みてろ、俺様がたったいま微塵切
りの串刺しにして・‥…‥・」
「雪、御堂なのに、そんなことできないじやん」
 2人は逃げまどう人々の間を逆走しながら、鳥人
へと向かう。と、そこへ一陣の風が辺りを吹き抜け
る。
 黒い服装を身に♯っている西園寺令子(さいおん
じ・れいこ)が2人を追い越すこ令子は朱目道場で
朱目礼子[あかめ・れいこ]に三輪山で見つかった
神代文字の事を報告に行っていた帰りである。
“キュアァ!’’
 鳥人は令子の殺気を感じたのか、視線を彼女へと
向け、甲高い声で一つ鳴く。
「おばちやん、あれは俺様の得物だぜ」
 追いついてきた雪の言葉を無視して、令子は呪具
である手袋をする。
「ねえ、雪、ちょっとここは止めた方が良いと思う
よ」
 渉の言葉に、令子と雪はハッと周りを見回す。い
つの間にか3人と鳥人とを囲むように、野次馬が集
まってきている。
「‥‥‥うむ‥・せっかくの好機だというのに」
 一般社会に、(識)と四門の存在を知られる様な
ことはしないのが、剣者、御堂共通の一般常識とな
っている。この禁忌を破る者には暗殺者が送られる、
という噛も(紗の間には流れている。
「ど、どうしよう‥・‥…・」
 縛が解けてきたのか、確かめるように翼をこ度三
度羽ばたかせる鳥人を気にしながら、渉は雪を見る。
「どうしようか、つて言われても…‥‥‥」
「追う」
 令子は、飛び立つ鳥人の後を追う。
「待てよ!」
 その令子のあとを追って、雪と渉は走り出した。
     *      *      *
「ー見つけた」
 中世的な顔立ちが目立つ紅浪詩音(こうなみ・し
おん)は、桜井市で何かを脚に頼みながら飛ぶ鳥人
を見つける。詩音の目の前で、鳥人は南の方へ向か
っている。その向こう側には、隣の音羽山より比較
的小さい山が見える。
「あの方向は‥・‥・…確か島見山だっけ」
 鳥人を追っていた詩音はニケツした黒と銀色の塗
装が目立つバイクにぶつかりそうになる。
「あっと」
「きやあ!」
 詩音のバイクを紙一重で避けた声と、バイクの後
ろに乗っていた女性の悲鳴にも倶た声が重なる。
「‥‥‥‥・気を付けろ」
 バイクを運転していた男一霧井恭平(きりい・
きょうへい)が、メットを取りながら抑揚の無い声
を出す。
「あ、すいません‥‥‥…でした」
「あら? 集方もあれを追っていたのね」
 鳥人を気にしながら、恭平に頭を下げた詩音にバ
イクの後ろに乗っていた霧井妙子(きりい・たえこ)
が声をかける。
「え?」
 妙子は詩音に笑顔を送ると、空を見上げる。
「どこに向かっているのかしら」
「‥‥‥・‥鳥見山」
 詩音の言葉に、妙子は少し驚いた顔をするが、
「なるほどね…‥‥‥ありがとう」
 と礼を言う。
「行くぞ、妙子」
「あ、待ってよ兄さん。ごめんなさい、じやあ鳥見
山でね」
 いきなりバイクを発車させた恭平に繋きながら、
妙子は辞音に手を振った.


●消失
 三輪山内部にある弼のある広間。ここでは現在、
十数名の(識)により石碑の文字や嗣などが調べら
れていた。
「…‥…・ビ、ラ、ウン、キヤ、ヤ、ラ」
 ボーイッシュな女子蒲生、勇泉境拍(いさみ・こ
はく)は詞のある広間の一角で『陣』術である東宮
を唱え終えると、辺りを見回す」
「何か変わったことあったかな?」
 碗拍は鹿勝銭で音羽山と連絡をとるが、返答は『異
常なし』である。
「だめだって」
 にこやかな笑みを浮かべている竜崎恵梨香(りゆ
うざき・えりか)に答え、瑞相はメモ帳に描いた簡
単なこの場所の見取り図に印を打つ。
 瑞相に恵梨香、それと白髪混じりの青年、鳳隆(お
おとり・たかし)の3人はここで無作為に『陣』術
で封印を解いていき、外で何か異変が起きないかを
試していた。
「ま、結界が破れていない可能性だってある」
 鳳は壁に手をやりながらそう言う。この辺りの岩
肌は花崗岩でできており、石英結晶を含む岩、とい
う点では外の磐座と特徴は似ていた。
「しかし、危ないことしなはんなあ」
 見るからに噺家風の北山冬悟(きたやま・とうご)
は、そんな3人を見て注意を促すこ
「そんなことしはって何か起きたら、しやれなりま
せんやないですか」
「隠し通路とかあるかもしれませんし」
 恵梨香に、ええけど、と答えて北山は境拍を見る。
「ところで、神代文字はどないなりました?」
「も〜全然だよ。似たような神代文字とか参考には
してるんだけど………。門でもこの神代文字は判ら
ない、つて言われちゃったし」
 柴門の施設へ問い合わせてはみたが、表出する資
料に目新しい記述はなかった。大体、歴史資料なん
てのは曲解と娩曲が山盛りであてにならない。御本
家秘蔵のともなれば事情も違うのだろうが、そうい
うのは門外不出と相場が決まっている。
「わたしはね、訳しても不用意にそれを口に出さな
い方が宜しい思うんですわ。言霊、ちゆうのもあり
まっしやろ? 特に言葉に(力)を持つわたしら御
堂が不用意なことを口にしたら、それが現実になっ
てしまうかもしれへんで」
 北山はそう琉拍や恵梨香、鳳に言う。
「それはそうかもしれないけど…‥・…」
「ちゆう訳で、とりあえず大阪弁に訳して意味だけ
理解する、ちゆうんはどうでっしやろ?」
「何故大阪弁なのさ?」
     *       *       *
「とりあえず、お近づきの印に」
 ついさっきまで無手だった霧原修平(きりはら・
しゆうへい)の手に、3本の椒が現れる。
「・‥‥‥‥どうもありがとう」
 ロングヘアの無表情な女子高生、小鳥遊薄(たか
なし・みお)が薔薇を受け取って抑揚の少ない声で
礼を言う。
「‥‥‥‥・彼の人、とは、楠木正成か後醍醐天皇のこ
となのかしら?」
「さあ、それはどうかしら」
 知的な女性、群青婁銀子(ぐんじょうろう・ぎん
こ)が石碑の文字を写しているロングヘアの朱崎初
音(あかざき・はつね)に答える。
 この場所を初めて訪れた銀子と霧原は、初音と滞
に此処が発見された時の話を聞いていた。
 此処の封印について知っていたという御堂、柳本
良則[やなぎもと・よしのり]の手によって此処へ
降りる階段の封印が解かれたこと。その時に映し出
された黒能の文字、そしてこの2つの石碑に書かれ
た2種薪の文字b
「柳本さん、ですか,一体何者なのでしょう?」
 その銀子に、渾は首を傾げることで答える。
「『木』って字も気にかかるけど、神代文字も判ら
ないね」
「恐らくは、書かれていることを呪術化する意図が
あるんだと思います」
 初音の言葉に、3人は彼女の方を見る。神代文字
とは、文字通り神代の時代の古来文字であり神字の
亜種と言う人もいる。ト[ボク]術、神事の宗源を
司る天児屋根命などが使用した太占より生まれたと
いう説がある。日本の神々の御名に付く(命)とは
御言(みこと)の意。言葉とは神であり、禅は火水
(かみ)。その妙用が、すなわち言責一呪術とな
る。此処に書かれた禅代文字が何かの呪術的意味が
あってもおかしくない、と初音は述べる。この辺り、
北山の意見と相似している。
「あくまで古稗道一宗教学上の話、ですけど」
「それが本当なら、文字の内容が判れば‥‥‥…」
「この山の謎は解けそう、だよな」
 銀子と霧原がそう初音の青葉を結論付けたとき、
滞が静かに愛刀『石動』を抜刀する。
「敵」
 静かな口調の滞の視線の先には、鬼火、落武者の
姿をした暗鬼が8体、表へと通じる所から現れてい
た。
「無駄!」
 先陣を切ったのは恵梨香である。恵梨香の短刀と
落武者暗鬼の刀とが一瞬交わる。その直後、刃を滑
らせて落武者の左腕を斬る。
 次に鳳がそれに続く。
「いっくよ−。ノウマク、サラバ、…・‥…」
「笹請三台玉女、六甲六丁為祝融神招魂‥‥・‥‥」
 暗鬼との斬り合いを始めた恵梨香らを援護すべく、
境拍の火界兇による『破』術と初音の『式』術の詠
唱が始まる。
「はああ!」
 滞の久遠流『剛』が刀ごと落武者暗鬼の体を、文
字通り叩き割る。と、そこへ周りの物より体の一回
り大きい落武者が、滞に築いかかる。
 刃と刃のかち合う音が、響く。
「僕も加勢するよ」
 霧原は滞の隣に並ぶように、落武者暗鬼に微塵流
『一』の速剣を繰り出すこ
(なんで神の山である三輪山に異生が‥‥‥・‥)
 北山は暗鬼との戦いの様子を信じられない、とい
う表情で見つめていた。三鞄山は大神神社などで信
仰の対象となっている山である。長年積み重なった
安泰を願う参拝者の念のこもった聖域にちがいない。
(何か、悪いことの前触れちやうんやろか?)
 その時、急に広間全体が青白い光に包まれ、岩壁
から細かい雷の様な物が床に落ちる。
「一体何が−」
 銀子の言葉は、途中でかき消された。
     *       *       *
 さて一方、石碑のある広間の更に下。隠されたよ
うに建てられていた詞の中も(識)の手で調査が行
われていた。
「あの、さあ‥‥‥・‥一つ訊いても良い?」
 ショートヘアに眼鏡の金城敦子(かなしろ・あつ
こ)が、木製の壁を調べる柳本に問う。
「あのさあ、あたしは今回の事件の裏で誰かが暗躍
している気がするの。それで、今回《鬼》の他に溜
峨納吾[ぬまが・ないご]って男が朱目道場を狙っ
てるらしいのよ。それで、もしこの男について何か
知ってるのなら、教えて項戴」
「朱目道湯を狙ってる男…・‥…?」
 柳本は朱目道湯という言葉に微かに反応する。
「あっと‥…‥‥ごめん、沼峨って男は直接は分かん
ないです」
「でも今女方、反応したわよ?」
「あ、小さいとはいえ、(識)の道場を狙うなんて、
無謀だな………と思って」
 壁や床などを調べながら、頼りなさげな風貌の鷹
南敬一郎(たかなみ・けいいちろう)はその2人の
会話を聞きいていた。鹿南の足下には、彼のペット
の猫、ミー子[−こ]が床を調べているつもりなの
 か、その匂いを嗅いでいる。
「あの、僕もいいですか?」
 意を決して、鹿南は柳本の方へと歩み寄る。
「えっと、柳本さん。貴方は何を知ってて、どうい
 う人なんですか? 三輪山の封印のことも知ってい
 たようですし。もしこの山の重要な何かを知ってる
 のなら教えてはくれませんか?」
「説明しても良いんだけど‥‥‥‥・今回はパス」
 敦子は思わず三白眼で、柳本を睨む。
「次の機会に、つてこと。今話しても信じて貰えな
 いし、俺もそれを鉦明できる物がないから」
「ところで、柳本さんはこの詞で何を探しているん
 ですか?」
 鷹南の問いに、柳本は少し悩んでこう答えた。
「死体、だよ」
 奥では、もう一つの集団が壁を術べていた。
「石碑にあ→た円心って、赤松円心の事だと思うよ。
図書舘で調べて見たけど、他にそんな名前の人って
見つけれなかったし」
「そうですわね。それに、此処の弼もその頃、南北
朝時代の物と見て間違いないと思いますわ」
 辺りを明るくしている照明を固定しながら、南条
美鈴(なんじょう・みすず)が北村柊(きたむら・
しゆう※)の言葉を肯定する。琉王白も調べたことだ
が、赤松円心とは南北朝時代、鎌倉幕符打倒時まで
は後醍醐天皇に協力したが、譲良親王死後は足利専
氏に従って反旗を翻した『悪党』と呼ばれた播鹿佐
用荘の地頭である。
「それは良いけどよ…何にも見つからねぇな。俺の
勘は怪しいって言ってるんだけどよ」
「何もないみたいですよ、ぼっちやん」
 ワイルドな風貌の大刀花末也(たちばな・きょう
や)と眼銘をした研ぎ師の男性、北原瑠(きたはら・
りゆう※)が辺りを見回す。
「そんなことないよ、ほら」
 懐中電灯で辺りを照らす小学生、青木悠馬(あお
き・ゆうま)が壁の一部分を指さす」
「そうですわれここが一番怪しいですわ」
 美鈴は駄馬の示す壁を叩いてみせる。よく見ると、
この壁だけ他の壁と木の材材が異なる。
「えへへ。大神神社に白蛇さんのお礼をしに行った
ご加護かな」
「試しに開けてみましょうか?」
悠馬に促された事もあって、北原がその木製の壁
を叩き割る。その奥は部屋になっており、さらにそ
 の奥には小さな祭塩になっている。壁や天井も、こ
 こは広間と同じ岩壁である。
「お、なんか有るじやねぇか」
 照明に照らし出された部屋を覗いて大刀花は嬉し
 そうにその中に入る。
「うん? あれ? あ痛!」
 大刀花のあとに続いた柳本が、左腕の時計を触ろ
 うとして悲鳴を上げる。
「どうかしたの?」
「いや、時計が壊れたと思って触ったら、季節外れ
 の静電気喰らっちゃって」
 柳本は敦子に時刻表示の出ていないデジタル腕時
 計を見せる。
「静電気のせいじやないみたいですわ」
 美鈴の言葉に敦子と柳本が辺りを見ると、周囲の
岩壁に幾つもの細かい雷光が生まれでていた。
「‥‥・・確かに、圧力のかかった花崗岩からは電圧が
発生する、つて聞いたことがあるけど」
 鹿南はミー子を抱きかかえながら、雷光の数が増
えていく様を呆然と見ていた。
「ぼっちやんあれ…」
 北原の言葉に、悠馬は目の前の壁を見る。そこに
は白く塗られた蛇の絵が浮き出ていた。
「あれは叫」
 鹿南が言葉を言い終える前に、(織)と暗鬼の姿
が三輪山内部から消失した。
     *      *      *
 須翁かみら(すおう・−)は三輪山禁足地内で修
行を行っていた。
「‥・‥‥‥辺りの《気》が変わった? 何があったの
だ?」
 かみらは三給山山項を仰いで、そう呟いた。

●遺跡
音羽山の廃寺跡。村上一党がここで《鬼》の左腕の
移植を終わらせて《鬼》の巣へと向かったあと、数
人の(織)が集まっていた。
「それで、どうだったの?」
「苦ッ苦ッ苦。朱目礼子の父親とは無論会うことが
出来ましたよ。ただ、神代文字については判らない、
という答えでしたがね」
 作業着にサングラスの赤井米(あかい・よね)に、
スキンヘッドにこれまたサングラスという六甲善助
(ろっこう・ぜんすけ)が答える。
「じやあ、収穫は無かったのね」
「いえいえ。そんなことが有るはずないでしょう、
この聖人の中の聖人の私が。帰りに朱目道場に寄っ
たところ、物部宅で物部文献[もののべぶんけん]
という物が見つかったらしいですぞ。詳しいことは
道場の方で調査中、ということだそうで」
「どうでもいいですけど、何時まであたしを此処に
またせておくつもりですの?」
 米と善助の会話を聞いていた麻生舞(あそう・ま
い)が両手を腰にあてる。廃寺の石碑に現れた6つ
の光点のポイントの一つが、禍々しい(気)の発散
されていた水晶が封印されていた弼だと推測してい
た。
「今あたしの仲間が《鬼》を追って、森の中に入っ
てるから。それが終わってからの方が安全でしよ?」
「でも円心、のポイントをー」
「円心? ああ、三輪山の石碑にあった奴ね。それ、
赤松円心のことだと思うわ。でも、6つの光点、ね
 。こんなのはどうかしら」
 米は奈良を中心に三重、京都といった土地を6つ
の光点に当てはめたメモを見せる。
「共通点とかは考慮してないけど‥‥‥…」
「あたし、《鬼》の出現に関わる山の位置だと思う
けど? 結横良い線行くと思うんだけどなあ。例え
ば三輪山とか耳成山とか天香久山とか」
 ポニテの女子高生、御鈍らみあ(みづち・一)が
掘り起こされた石碑を見て言う。
「それなら遺跡の場所っていうのもありだよね」
 童顔にドングリ眼の濱寄紫(はまさき・ゆかり)
が、らみあの言葉を受けて喋り始める。
「三輪山、つてそれ自体速跡だって詰もあるし。日
本のビラミッドの1つだってね」
「まあ、確かに井香川新造なんかは、そう言ってる
けど」
 ビラミッドという言葉に何か符号の様な物を覚え
つつも、考古学上何の意味も無いのよね、と米は溜
息をつく。
「ガ〜ン。僕の思考って井香川新造レベルなのかあ

 その米の言葉に、一人ショックを受ける溌寄ム
「でも、何にしてもこの真ん中の点だけどうやって
も当てはまる場所が無いのよ」
 らみあは桜井市と柱原市内にある山、三輪山、大
和三山、忌部山、二つの鳥見山、初瀬山。これらの
山を地図上で6つの点に当てはめていた。
「と、言うことは他の点はなんとかなったのですか
な、IQ3桁のあなた」
「さっき言った山で、2パターン出来るわよ」
「三輪山、耳成山、音羽山の隣にある鳥見山もしく
は天香久山、畝傍山、忌部山で2種数,共通項は山
の中、もしくは麓に神社、最低でも遺跡一巨石が
あるってことかな」
 僕も地図と点との照合はやったんだよ、と濱苛は
言葉を続ける。
「真ん中は鹿宮紡が怪しいかな、と思ったんだけど、
それだと共通項から外れちゃうんだよね」
「あの、《鬼》の巣と水晶の詞のあった音羽山が入
ってないです」
「うん‥‥‥…でも、音羽山って、あの点に当てはめ
にくいのよね.別物、つて思った方が良いかも」
 濱寄の代わりに、らみあが舞に答える。
「真ん中もそうだけど、この中途半端な十字を完全
な十字にするには、あと3つの点が足りない様なき
もするわ」
「単純に多いだけだったりして。1個」
「じやあ、どうして1個多いの?」
「‥‥…‥分かんない」
「また井香川新造と似たようなことを」
 またショックを受けてる濱寄を後目に、米は厭勝
銭を取り出す。三輪山で何か見つかったか確認する
ために、仲間と連絡を取る為である。米は鹿勝銭を
口元に寄せると仲間を呼ぶ。が、返答はない。
「‥…‥‥つかしいわね」
「どうしました?」
「三輪山と連絡が取れないのよ。一体どうしたのか
しら?」
 米と善助は木々の間からその姿を覗かせている三
輪山を見る。


●鳥見山
 紅浪詩音と霧井恭平、霧井妙子の3人は、鳥人を
追って音羽山の西隣にある鳥見山へと足を踏み入れ
ていた。バイクの入る様な道が無いため、霧井兄妹
も歩きである。
「しかし、何処にいるのかな‥‥‥…」
 山の中腹にさしかかったところで、詩音が疲れた
様な溜息を吐く。
「あなた、大丈夫?」

 詩音を気遣う妙子とは対照に、恭平は何の興味も
示さない。
「いるぞ」
 恭平は2人を振り返らず、愛刀『秀風』を抜刀す
る。恭平の前方、10メートルの木の陰に翼を休める
様に座り込んでいる。
「っそう!」
 詩音が全力疾走して鳥人へと向かう。鳥人は詩音
の気配に気付いたのか、目を開ける。
「飛ばせるかよ」
 恭平は『霧剋で立ち上がった鳥人の足下を薙ぐ。
“クウアアアア!’’
 続けて、右足を斬られ飛ぶタイミングを失った鳥
人に、詩音は斬りかかる。
「ひゆ」
 口元から洩れる呼吸と共に、詩音は微塵流『一』
で鳥人に斬りかかる。
 無手の右腕を失いながらも、鳥人は翼を羽ばたか
せて宙に舞う。それに対して警戒するように、詩音
と恭平がそれぞれ得物を構える。
 鳥人は空中で左手に持った、先の尖った錫杖を横
える。鳥人は3人の真上を旋回し、そして上から恭
平に向けて急降下する。大和八木駅近くで、人を狩
ったときと同じ方法だ。
「‥‥‥・‥神火清明、神水清明、禅風清明」
 妙子の『陣』術による結界が3人を包む。しかし、
その結界では鳥人の錫杖を防ぐことはできなかった。
 そのとき、風が木の葉を鳴らした。
「巾イシツデントバタラハタヂ、ソワカ」
 木の上から西園寺令子が『破』術の真言を唱えつ
つ、鳥人の背に飛び降りる。
 鳥人は令子の陀剋術影響で、羽ばたいていた実
の動きを止められる。倒れ込む鳥人の横に、令子は
着地した。下の方からは、竜崎捗と白姫雪の2人が
走って来る。
「えい!」
 渉はいまだ倒れている鳥人に『柔』で斬りかかり、
翼の一枚に浅い傷を付ける。
「俺様の水晶は返して貰うぜ!」
“巾ソレハ困ル’’
 呪具を構える雪の言葉に応える様に、いつの間に
か現れた、頭から顔全体に布を巻いた男が、この塘
にいた(識)の前に現れる。
「…奥義、『風車』!」
 その男の言葉を無視して、恭平はなんとか起きあ
がった鳥人に、『連』とl相関を組み合わせた奥義、
『風車』繰り出す。その後には詩音が続く。
“キュウアアアア!”
 『風車』と微塵流『疾』によって体に刻まれた4
つの傷に、鳥人は甲高い悲鳴をあげる。その傷口か
らは、淡い光を発している水晶の姿が覗く。
“一一〜−イカン”
 男は、奥義を繰り出した後で、まだ体勢の整って
いない恭平と鳥人の間に入る。男は鳥人に手を添え
ると、独特の旋律を持つ唸り声を発する。その唸り
声に呼応するかの様に水晶の光が強くなる。そして
まるでその光に癒されるように、鳥人の体が復元す
る。
「何−!?」
「呪言!? 唸り声が呪言になってるのね!?」
 妙子の言葉に反応を返さず、男は鳥人に向けて一
言獣の様に、小さく吠えてみせる。
「させぬ!−オン、カカカカ、ソワカ!」
 令子は男に向けて『破』術を唱える。男はその術
を喰らいながらも、鳥人を庇うように立ちはだかる。
鳥人は男の指示に従うかのように、翼を羽ばたかせ、
飛び立つ。
「ノウマク、サラーウンラタラタ、カンマン」
 令子は鳥人にむかいつつ続けざまに火界児、と呼
ばれる『破』術の真言を唱える。鳥人に向けられた
それは、遮る様に立ちはだかる男が、受ける。
「何者なのさ」
“一貴様ラノ仲間ハ我ヲ人鬼卜呼ンダガナ”
 男一人鬼はそれを問いの答えとした。
“奴ニハ貴様ラノ本陣ヲ攻メル任が有ル故。此処デ
倒サレル訳ニハイカヌ”
 人鬼はそれを告げると、山の奥へと跳羅する。
「本陣? …朱目道場か!? 俺様の水晶は!」
 雪に応えるでもなく、人鬼の気配は消える。
「追うぜ捗!」
「その前に・‥・‥…」
 男に攻撃しそこねた詩音が雪の肩を掴む。男が消
えた直後に詩音らの周りに、数体の落武者暗鬼が現
れていた。
「時間稼ぎ、のようじやの」
「この数なら敵じやない」
 令子の言葉に、恭平は不敵な笑みを浮かべる。


●音羽山
 《鬼》の巣での異生との戦闘の後。《鬼》の左腕
を自ら移植し呪縛され、仲間に攻撃を仕掛けた1人
の(識)をどうやって捕らえるか、その話し合いが
行われていた。
「・…・‥‥弓の舞を使えば‥‥・・‥あるいは…‥‥‥」
 ある(識)には、以前物部五月[ものべ・さつき]
が《鬼》 との戦いで使用した厭勝術が頭に淳かぶ。
その術に呼応し、たやすく落武者暗鬼を葬った時の
事を思い出すかのように、そう呟いた。
「あやや? え? え?」
 現状を把握していない五月は、ただおろおろする
ばかりである。


●向こう側
「大丈夫ですか?」
 誰かに肩を揺すられた朱崎初音は、目を開ける。
目の前には鹿南敬一郎の顔があった。
「きや!」
 パン!
「あ〜あ。可哀相に」
 勇泉境拍が苦笑してみせる。
「あ…‥‥‥ご、ごめんなさい」
「だ、大丈夫です‥‥‥‥・」
 気を失っていた自分を起こしてくれたのだと悟っ
た初音は、鹿南に頭を下げる。
 唐突に呆然とした。
 たしか、三輪山内部にいたはずだ。
「ここは‥‥‥…どこでしょうか?」
 ほとんどが荒野である。荒涼として、赤茶けた大
地)遠くに、小高い山が一つ見え、その周りには木々
が生えている気配がある。近くには崩れかけた鳥居
が1つだけ立っている。
「鳥取砂丘か、阿蘇山か」
「さあ‥‥‥‥・どこでっしやろなあ。空気の感じから
して、最低でも日本じやありませんわ」
 北山冬悟が答える。
「‥‥…‥そういえば、暗鬼たちはどこ?」
「あ‥‥‥…そうだな」
 近くに落ちていた愛刀を、鞘に納める小鳥遊滞の
言葉に、鳳隆が同意する。
「あ、あれ何でしょう?」
 鷹南が空を指さす。そこには微かに数百人の武者
の戦いの様子が、幻影の様に浮かんでいる。ある者
は相手を斬り倒し、ある者は逆に斬られ馬に踏みつ
けられる。その中に、この前出た三輪山の守護者の
様な人形の姿もある。その戦いの様子は、ホンの十
数秒で消えた。
「‥‥‥とりあえず、どうするの?」
「そうだね。早く帰らなきゃ」
 金城敦子の言葉に、青木悠馬が同音する。
「でも、どちらに向かえば良いのでしょう?」
「確かに‥‥・‥‥闇雲に歩いてもな」
「ねえ!あそこに人影が見えるよ!」
「善は急げだ、お〜い」
 霧原修平が皆を促す。砂漠でようやく見つけたオ
アシスに向かうように駆けだして、徐々に速度を緩
め、小走りになり、頬をこわばらせて止まった。
「‥‥‥あんた、誰?」
 骨だった。正確には、2人組は骨の様なものだっ
た。赤茶けた細い四肢と、のっぺりとした能面の様
な顔をしている。装いは足軽めいた鎧だ。
「あ‥‥‥暗鬼?」
 骨は首を傾げて、顔を見合わせる。首を絞められ
た猫のような声で囁く。金魚のように口を動かし、
やがて、掠れてこもった声がでた。
「(どこで造られました)」
「? いや、作られた訳じや無いんだけど」
 霧原の言葉に、相手は目を合わせる。
「(では、漂流者ですね)」
「??」
 2人は鷹[たか]と壊[さる]と名のる。
「(詳しい話は邑で伺うといたしましょう)」
「一ついいか? 三輪山はどっちの方角だ?」
「(三輪山と?!お主ら、『太守』の漂流民では無
いのですな?)」
 鳳の言葉に、猿が大声をあげる。
「(では、いとあわれ。お主らは帰る術を失ってし
まった。ここは造けき遠き場所。かつての主は金剛
界と呼ばれた)」
トーはあ?」
「ちょっと待って下さいよお」
 そこへ、遅れてきた北村柊が息を切らせながら追
いついてくる。
「お、お腹すいて力が‥‥‥ハア、出ないモノで」
「じやあ、落ち着いたら、何か材料を貰って何か作
りましよう」
「ほ、ホントっすか?」
 北原の言葉を聞いて、北村は期待に目を星の様に
輝かす。この前の北原のお重詰めの弁当を思い出し
てか、頬を少し紅く染めている。
「え、ええ。あの、料理するだけですから、その…
‥‥‥。まさか変なこと考えてません?」
「いやあの、僕も飯しか望んでませんよ」
 困った顔をする北原に、北村は思いの外、冷静に
答えた。
     *       *       *
 邑は、村であるらしい。
 そこには、奇怪な生物が開歩していた。軟体であ
るが、人にも見える。一様にロープめいたものを身
に線った彼らこそ、この『世界』の『住人』なのだ
と気がつくまでに、暫くを要した。
「すると、遥か三千世界の彼方‥‥‥」
 実感がこもる。
 く識)の伝承に(穿)の向こう側を謡ったものは
数多いが、実際に目にすることは希少である。無事
帰還した者はさらに希少だ。身重な体験には違いな
いが、ふと、背中が薄ら寒くなる。
 どうやれば椅れるのだろう。
「良く来られた」
 案内された湊物には長老らしい『人』がいた。
「鬼を追ってこられたそうな」
 話法の一種らしい。直接脳裏に声が響く。
「かつて、この地を訪れた者の中にも、鬼が出たと
口にした者は居る」
「知っておられるのですか。なら、《鬼》について
教えてくれませんか? ついでに、こっちの方が重
要なんですが、椅る方法を」
 銀子の問いに、長老は静かに日を閉じる。
「残念ながら帰る方法は失われて久しい」
 大ショック。
「が、鬼については教えてやろう。最後にここを訪
れた者の頼みでもある」
「頼み?」
「もし、《鬼》を調伏するが為にこの地を訪れる者
があれば、協力してくれと」
 柳本の問いに、長老は静かに答える。
 数秒の間。
「あの、それで…‥…・さっきの答えは・‥…‥・」
「あわてるではない」
 長老は碗拍の言葉を制すと、席と壊を呼ぶ。
「ここから東の方角に、山がある。そこに円心とい
う男の造った建物がある。そこで、何か得られるで
あろう。そこまでの案内は鹿、壊にさせるとしよう」
 その時、障子の向こう側から、慌ただしい足音が
聞こえてくる。ぺたぺた。
 長老と「男」はなにやら甲高い声で離しているが、
到底意味は分からない。
「鬼に同胞が殺されたそうだ。鬼は、その後、東の
山へと向かったという」
「やはり暗鬼もこの地に…・‥…」
 滞は静かに呟いた。


●神隠し
 音羽山から、連絡の途絶えた三輪山へと訪れた赤
井米、六甲善助、御鎚らみあ、麻生舞、演寄紫の5
人は、その内部の捷索を行っていた。
「しかし、見事に誰もいないわね」
 米は溜息をつきながら辺りを見回す。
「一応、争った形跡はありますぞ」
 その米に、善助が辺りを調べた結果を述べる。
「きっと、《鬼》が現れたのです!そして封印の
水晶を奪ったに違いないです」
「けど、ここで綿々しい《気》を発していたモノは
見つかって無いはずなのよ」
 自らの推論を述べる舞に、米はそう答える。
「《鬼》の腕も検査中だし。謎ばっかね」
「でも、争った形紡があるなら、あながち間違いじ
や無いのかも。《鬼》がここで何かしようとしてい
る、つて事もあるし」
 舞と米に、らみあはそう推論を述べる。
「ねえ、こっちのこれ、見てよ」
 済寄は、下にある弼へ続く階段で皆を呼ぶ。その
詞の中に、荒野の中を米の仲間を含めた(識)が足
軽の様な2人組の男と歩いている光景が浮かんでい
る。そして、それは程なく消えた。
「日光江戸村‥・‥‥‥じやあ無いよね。きっと」
「うん。ちがうと思う…‥・・‥」
 らみあは溌寄の言葉を否定しながらも、じやあ何
処? という問いに答える事が出来なかった。


■次回アクションナンバー
R131・01)鬼の手に呪縛された(識)を捕らえる
R131−02)石碑の6点と思われる場所へ
R131・03)鳥見山で対人鬼戦
R131・04)鳥人を追って朱目道湯へ
R131−05)金剛界で対暗鬼戦に参加
R131・06)金剛界で調査活動。
注)金剛界におられるPCは、次回05)06)以
外の選択肢を選択できません。また、他のPCが0
5)06)を選択するためには金剛界に行く方法を
見つける必要があります。


■マスターより
 どうも。当リアクション担当の渡辺豊です。第3
回リアクションをお送りします。どうぞ御自由にお
使い下さい。
 さて、重要な業務連絡を。
 扶桑見報にも載っていますが、皆様のキャラクタ
ーシートの剣術、席勝術のレベル、経験値がAIS
側のバグにより誤った数値になっている方がいます去
また、それにより格が下がっている湯合もあります。
詳細は扶桑見報の方を確認して下さい。
 もう一点。


 御堂には剣者ような奥義習得はありません。スタ
ートブック上に明記されておりませんこと、お詫び
申し上げます。これにて御堂から剣者にキャラクタ
ーの変更を行いたい場合は、第4回に限り無料で行
いたい思います。この場合、キャラクター登録デー
タ変更用紙の右手の余白に赤ペンで「御堂一剣者変
更」と記入して下さい。


 「斬影夜葬曲」プレイヤーの方々にはご迷惑をお
かけして申し訳ありません。
 今回のことを教訓に、AISはお客様が弊社ゲー
ムを楽しんで貰えるよう、努力していきます。これ
からも弊社ゲームを、よろしくお願致します。
■関連新聞記事(一部)
 十面 大和八木で真昼の惨劇


■参考リアクション
 R132 鬼の巣
 R133 朱目道場
■個別通信(一部)
須翁かみらさん)奥義は自分の持っている剣術での
みの習得です。「一」×2となってます。
南条美鈴さん)ポェミーは嫌。あと、見聞録傾いた
ので、編集の方にお礼言っておいて下さい。頭下が
る思いです。あと、何故最後がGGG?
赤井米さん)《鬼》の腕は、現在調査中、つてこと
で。
鳳隆さん、勇泉琉拍さん、西園寺令子さん)はい、
AIS側のミスです。誠に申し訳ありません。


■誕生日のコーナー
 六甲善助さん、霧井恭平さん、霧井妙子さんは今
期リアクション期間中に誕生日を迎えられました。
おめでとうございますこ


 では次回もがんばってください。