I wish
「はいはい、おじゃま〜〜〜〜」
ドアがノックされると同時に、豪快に開かれる。こんな入室の仕方、思いつくのはたった一人しかいない。
「絵理………もうちょっと静かに入れないの?」
その後ろから、同じように聞き慣れた声。
「いいじゃん。あ、多香ちゃん、熱出したんだって〜〜〜大丈夫?」
「--------うん」
寛子はちゃんと布石を打っておいたらしい。妹である今井絵理子と、その幼馴染みの新垣仁絵がそこには立っていた。
「熱は?」
「さっき計った時は、7度近くだったけど」
そう答えるけれど、やっぱり顔色、悪いよなぁ。
絵理子はそう言うところは、非常に敏感に感知する能力に長けている。ベッドに歩み寄ると、腰掛けを引き寄せ、腰掛けた。
「ね、多香ちゃん」
「ん?」
首だけを横に向け、多香子は静かに答える。その手をそっと取ると、絵理子は微笑う。
「何かさ、して欲しいこと、ある?」
絵理子の言葉に、多香子は一瞬、目を丸くした。だけど、絵理子の気持ちが痛いほど解る。
幼くして、離婚した両親。小さい頃、こんな風に寝込んでいても、誰も側にいてくれなかった。
父に引き取られた絵理子は、懸命に働いている父親を心配させたくなくて。母に引き取られた多香子は、その手を煩わせたくなくて。
その気持ちが分かるのは、絵理子だけなのだ。
多香子はやんわりと微笑んだ。その笑顔に、仁絵はドキリとする。
--------なんつーか、美人の無防備な笑顔って、無敵だよね。
「仁絵ちゃん?」
視線を感じたのか、多香子が名を呼んだ。
「えええええ、なに?」
あまりの慌てように、多香子と絵理子はびっくりした顔をするが、
「立ってるのもなんだし、座ったら?」
何もなかったように、誘ったのだった。
「随分と騒がしいねぇ」
しばらく談笑していると、ノックの音と共に、のんびりとした声が届いた。
「沢詩先生!」
保健医である沢詩奈々子が開いたドアに凭れ、ふふんとした顔をしていた。それを見ると、仁絵も絵理子も『しまった』という表情をした。
外見はとってもクールなのに、普段は『ぽや〜〜〜ん』としていて可愛い感じなのだが、健康面に関しては、怒ると怖い。
それが彼女に対する全員一致の意見なのであった。--------でも、人気は抜群にある。
「上原〜〜〜〜」
「あ………はい」
ベッドに横たわりながら、多香子は答える。保健医はベッドに歩み寄ると、その前髪をぐしゃぐしゃにした。
「あんた、熱あるんだからねっ!注射したから、こんだけの熱で済んでるってこと、自覚しなさい!」
そして、ぐりんと仁絵と絵理子に視線を向ける。
「あんた達も!具合悪い人間のとこに、長いしないのっ!ほら、でてったでてった!!」
「あ………はい」
じゃ、この辺で。
絵理子と仁絵の首根っこを掴みながら、沢詩先生は部屋を去っていったのだった。
その背を見送りながら、
「もしかして………心配してきてくれたのかな?」
なんてことをぼんやり考えている多香子なのであった。