I’ll be with you

6
 


「--------くっ!」
 脇腹を指でくすぐられて、一瞬、多香子は身を捩る。けして、くすぐったい訳じゃなくって。さっきから、背筋にぞわぞわくる、『何か』。その『何か』から逃れるように。
 寛子は指を追うように、唇をそこに滑らせる。身を起こすと、さりげなく多香子を俯せにしようと、腕に力を込める。
「ヤッ!」
 不意に強張る身体。
「多香………?」
 寛子は、顔を覗き込んだ。それに、多香子はいやいやをするように首を振る。
「ヤダ………寛子………ヤダ」
 その傷を見られるのだけは。
 寛子は、困ったように眉間にしわを寄せる多香子の、頬を軽く唇でなぞった。そして、囁く。
「大丈夫………多香………大丈夫」
 傷つけたくないわけじゃない。むしろ逆。癒してあげたい、その傷を、心を。
「あたしだよ?怖くないよ?大丈夫………」
 その言葉に、多香子はぼんやりとした視線を上げた。そして、切なくため息をつく。
「でも………」
「多香………」
 そんな愛しげな視線で見られたら………抵抗、出来ない。
 多香子はそっと、導かれるまま、シーツの上に俯せになった。綺麗な背中のライン。その背を覆うように、ひきつれた火傷の痕。
--------どれだけ、痛かっただろう。どれだけ、傷ついたのだろう?
 寛子は、唇をそこに近付ける。その気配を感じた多香子は、思わず身を強張らせた。
「多香………」
 そっと重ねられる手。多香子は、それをすがりつくように握りしめる。
 寛子はその痕に、柔らかく口付けた。何度も、何度も。
--------ああ。
 その感触を無意識にお求める自分に気付き、多香子はため息をつく。
 ずっと………こうされたかったんだ。隠すんじゃなくって、全てを見てもらって、そして、『それでもいいんだよ』と言って欲しかったんだ。
「くっ………」
 多香子は思わず声を漏らした。その涙がシーツに染みこむ。
「多香?」
 慌てた寛子は、多香子の顔を覗き込む。そして、心配そうに告げた。
「--------ごめん、いや、だったよね?」
 それには、多香子は首を横に振った。そして、仰向けになり寛子の首筋に腕を巻き付ける。
「違う………違うの」
「--------………」
「寛子が、好きなの………それに、今、気付いたの」
 今までとは違う、透明で綺麗な気持ち。--------こうして、肌を合わせるコトで、やっとやっと判った。
「--------そっか」
 よく訳が分からなかったけど、何となく意味は解った。だって、自分もこんなにも彼女をいとおしいという気持ちが溢れだして仕方がないのだから。
「--------好きだよ」
 何度だって、言いたい。
 深い深い口付けを交わしながら、2人はそう思った。

 

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