放課後になった。周囲は部活に行く人やら、放課後の予定やらを相談する少女達やらで、ざわめいている。
そんな中、絵理子は寛子に問うような視線を向ける。寛子はその視線を受け、多香子の方へと目を向けた。
当の彼女は、机の上を整頓し、さっさと教室を出て行ってしまった。
「・・・・・さて、どうする?」
あたしが行ってもいいんだよ?
絵理子の瞳がそう告げている。くるくるとよく表情の変わる絵理子の瞳は、くっきりとした二重でとても愛らしい印象を受ける。
「・・・・・・・行ってくる」
自分でも判ってる。確かに、大した問題ではないのかもしれない。彼女に笑い飛ばされたらおしまいだ。
だけど、寛子自身、それを放って置ける性格ではない。
「大丈夫?」
「うん、先にみんなのとこ、行ってて」
そう告げると、慌てて多香子の後を追ったのだった。
「・・・・・って言っても、どこに行きゃいいんだろ」
教室を飛び出した寛子の背後から、聞きなれない声が届く。
「寛子」
この声は・・・・・。
「・・・・・・っと」
急ブレーキをかけ、慌てて振り返る。そこには、探していた多香子が微笑んでいた。
「絶対、探しに来ると思って。焦ったよー、あたし、教室でても、今井さんと話してるから」
だったら、教室で待ってればいいのに・・・・・・。
寛子の表情に書いてあったらしい。多香子は、くすりと笑って続けた。
「転校初日なのに、そんな長く教室にいられるわけがないでしょ?」
「そりゃそうだけど・・・・・・・」
「で、昨夜から今朝のこと、訊きたいってわけ?」
うっ!見透かされてる。
「・・・・・・うん」
先を読まれて、寛子は子供のように頷いた。多香子は、ざわめく廊下を見回すと、
「ここでいいの?」
それは困る!
「・・・・じゃあ、ちょっと時間取らせちゃうけど・・・・いいかな?」
「・・・・・・いいよ」
どうせ早く帰っても何もないし。
そう続けた多香子を促すと、寛子はゆっくりと生徒会室へと向かったのだった。
「こんにちわ」
「お邪魔します」
寛子が多香子を連れ立って入ると、そこには既に3人が集まっていた。ちなみに副生徒会長は、急病で只今入院中なのである。
「いらっしゃい・・・・・上原さん、だっけ?あたし達のこと、覚えてる?」
里奈が多香子にソファを勧めながら、問題を切り出す。
「ええ。・・・・・生徒会会長の知念里奈先輩ですね」
『ひゅう』。軽く口笛を吹くと、里奈は絵理子に向かって、
「絵理、お茶入れて。何がいいですか、上原さん。何でもありますよ」
にっこりと笑って続ける。
「ミルクティでお願いします」
「じゃ、それ5つね」
「はい」
素直に引っ込む絵理子を手伝おうと、寛子も行きかけたが、
「寛ちゃんはこっち」
仁絵にやんわりと押し戻される。そして、仁絵が絵理子を追って、給湯室の向こうへと消えた。
「・・・・・それより、よく名前までわかりましたね」
「転校生には、何かと情報を教えてくれる人がいますから」
里奈の言葉に、多香子は静かに答えた。そして、給湯室をちらりと見る。
「生徒会の手伝いをしてる、私と同じクラスの今井絵理子さん、その後を追っていったのが書記の新垣仁絵先輩。そして・・・・・」
寛子に視線を向けた。
「島袋寛子さん」
ドキリ。
静まれ、心臓。
寛子は心で懸命に呟いた。
「4人とも、とても校内では有名らしく、すぐに教えてもらいました」
「お褒めに預かりまして」
里奈はにっこりと笑う。
・・・・・・怖い。
寛子は素直に思う。
この張り詰めた空気の中で、悠長に会話してるこの二人が、本当に怖かった。
助けて、ペガサス。
どこかのアニメで流行ったセリフを、寛子は思わず心で呟く。
「お待たせ〜」
お盆を手に、絵理子と仁絵が給湯室を出てきた。そして、カップを5人分配る。
「ありがと」
全員が席につく。それを見計らって、
「まぁ、本題はそこじゃないんですけどもね」
とうとう里奈が話を切り出したのだった。