運命のドア



「ほんと、からかいがいがある娘だよねー」

 『ふぅ』と溜息をつきながら、里奈は続ける。その言葉に、寛子は、すぐに我に返った。

「里奈先輩っ!!」

 『むっき〜〜』となり立ち上がる寛子は、不意にソファに引き戻された。

「へ?」

 慌てて隣を見ると、絵理子がにっこりと笑ってる。そして、ゆっくりと告げる。

「もう止めよ?ね?」

 その笑顔に、寛子は一瞬不満気な表情をしたが、どうにも絵理子には逆らえない。

「・・・・・・うん」

 渋々答えると、お茶を入れに立ち上がった。この高校の生徒会室は妙に豪華で(逆を返せばそれだけの権限が生徒会に与えられているということだ)、生徒会室にはソファセット、学校長が使うような立派な机、そして、給湯室が続き部屋である。

「仁絵先輩は何にします?」

「あー、じゃあ、コーヒーで」

「絵理は?」

「煎茶。あんま濃くないの」

「OK」

 返事をして続き部屋の給湯室に入ろうとする寛子の背に、

「ね〜〜、あたしには〜〜〜?おかわり〜〜〜〜」

 甘ったれた声が届く。

「・・・・・・・・」

 無視だ無視。こんなヤツ。

「ひ〜ろ〜こ〜ちゃ〜ん〜〜〜〜」

「・・・・・・・・」

 絶対に無視!

「ね〜〜〜〜〜〜」

 バタン!

 そして、扉は閉ざされたのだった・・・・・。

 

 

「あたしにも・・・・お茶・・・・・」

 しくしく泣きながら、里奈は呟く。そんな相手に仁絵は呆れたように、

「あれだけ遊んでおいてそれはないんじゃない?」

「でも、まぁ・・・・前に比べれば良くなったかな。あれだけ感情出せるようになったし」

 仁絵の言葉に、真顔で里奈は答えた。絵理子も微笑みながら頷く。

「あれ?寛ちゃんって、前からあんな性格じゃないの?」

 この4人の中で仁絵だけ中学が違うのだ。

 この高校で里奈と知り合い、とばっちりで生徒会書記なんてやっているが、あんまり人前に立つのは苦手な方だった。

 しかし、何故だか里奈に気に入られてしまい、今に至る・・・・・。

「う〜ん、ずっと前はそうだったんですけど・・・・・」

「ちょっと前にね、色々あって」

 絵理子の言葉を里奈がフォローする。無神経に見えて、実は細やかな性格なのた。

 里奈は、並居る2年、3年の立候補者を押しのけて、1年後半には生徒会長に当選してしまった、こう見えても凄いヤツなのである。

 その手腕も凄い。彼女が会長になってから、ずいぶんとここの高校は改革され、上からも下からも『憧れの生徒会長』なのだ。

「ふ〜ん」

 それ以上、仁絵は聞かなかった。入り込めない何かを感じたし、今の寛子を知っていればそれでいいと思った。

「・・・・・仁絵のそーゆーとこ、いいよね」

 唐突に里奈は言った。『ね?』と同意を求めるように、絵理子に向き直る。

「・・・・・・・えっ・・・・・は・・・・はい」

 何故だか顔を赤くしながら、絵理子は答えた。

「・・・・・・いきなり何を」

 絵理子の表情に、仁絵は何故だか悲しくなった。理由は自分でも判らない。

 仁絵が小さく溜息をついたその時に、給湯室のドアが開いて寛子が盆を手に出てきた。