月と太陽
11
傷の手当ても終わり————その最中に、ヒロからどうしてこうなってしまったのか、という説明はきちんと受けた————エリは安定した寝息をたてはじめたヒトエの寝顔を、じっと見つめていた。
「————全く・・・・・・」
自分の無力さのせいで、こんな事態を招いてしまった。悔しくて悔しくて仕方ない。
「バカだ・・・・・・あたしは!!」
ヒトエのために強くなりたいと願っていたのに、結局はこうして『最悪の選択』をさせてしまった。
エリは両手で顔を覆った。涙が後から後から溢れてくる。
『そんなに、自分を責めないで・・・・・・』
エリは涙に濡れた顔を上げた。そこには、先程、ヒトエの側に佇んでいた少女が微笑んでいる。
エリには、この少女がこの世の人間ではないことは判った。
「あなたは・・・・・・誰?」
『————先代の『魔剣士』よ。あまりにも見てられなかったから、ちょっと手伝ってあげたの』
少女はヒトエにそっと歩み寄ると、確認する様に頷いた。
『大丈夫そうね』
「————どうして、助けてくれたんですか?」
エリの問いに、少女はベッドサイドに置いてある剣に視線を向けながら答える。
『結果的には、あなた達を助けたようになったけど————本当のKとを言えば、自分の恨みを晴らしただけ』
「・・・・・・・・・・・・」
『————ね、私がどうして、『魔剣士』になったのか、聴いた?』
「少しは・・・・・・」
頷くエリに、少女はにっこり微笑う。
『あれ、ちょっと違うの。この街を助けたかったわけじゃない————恨みを晴らすため、それだけのために、『魔剣士』になったの、私』
「・・・・・・どうして?」
『・・・・・・大切な人達を、アイツに殺されてしまったから・・・・・・憎かった、本当に憎かった』
少女は昔を思い出すかのように、遠い瞳をした。しかし、すぐに視線を戻す。
『だから、この娘が、『あなたを助ける為に』って言ったときに、正直驚いた。————私とは全く逆だったから』
エリはヒトエに視線を向けた。切なげに息をつく。
「ヒトエ・・・・・・ちゃん」
『アイツを倒せたのは、私だけの力じゃ無理だった。彼女の揺るぎない・・・・・・『大切な人を助けたい』という気持ちがあったから、あれほどまでのこの剣の力を引き出せたの』
彼女はそっと剣に触れた。そして、続ける。
『私はマイナスの動機だったから、この剣に囚われてしまった。————だけど、彼女なら大丈夫。囚われそうになってもきっと乗り越えて行けるわ・・・・・・あなたがいれば』
「あたしが・・・・・・?」
少女はエリにそっと歩み寄った。綺麗な長い指を伸ばし、エリの頬に触れる。
『あなたに伝言を頼んでもいい?』
「————どうぞ」
『・・・・・・『ありがとう』って伝えて。『あなたのおかげで、やっと還れる』って」
「判りました・・・・・・」
エリの返事に、少女は軽く微笑んだ。そっと離れると、くるりと振り返り歩みだす。
「名前・・・・・・名前!教えてください」
光に溶けてゆくように薄れ行く少女に、エリは思わず叫んだ。少女は驚いたように目を見開くと、
『————リナよ』
小さな小さな声でそう答え、光の中へと消えていった・・・・・・・。
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