Solitude


 夜更けの広場。流石、祭りと言っても真夜中では、人気がなくなる。
「—————こんな時間にすみません」
 現れた人影に、エリは言葉をかける。それに、一瞬、びくりとした相手は、直ぐに小さく息をついた。
「いえ………この時間の方が、正直良かったです」
 色々と雑用がありますので。
 呼び出された相手—————オリビアは、微笑んだ。
「ところで、何かあったのですか?」
 いきなりの呼び出しに、オリビアは小首を傾げた。それに、困った表情でエリは頬をかく。
「えーと………ですね」
 もう、いい加減にしてよ、ヒトエちゃん、リナ!
「とりあえず………」
 軽く韻を呟くと、『ピキン』と何かが凍るような微かな音がした。それに、オリビアは一瞬、視線をちら、と走らせる。
「何か、しましたか?」
「えと………ですね」
 困った様に口を開こうとしたその時、不意にエリの背後からヒトエとリナが現れる。
「—————あなた達は?」
 『達』!?今、そう言ったのか?っつーことは、リナはこの人には見えてるって事?
 混乱しているエリとオリビアの間に、リナが入り込む。そして、ふわりと微笑った。
「?」
「失礼」
 きょとんとしているオリビアの額に手をかざすと、彼女の動きがぴたりと止まる。それに気付いたエリが、問いかけようとしたが、ヒトエの腕に阻まれる。
「ヒトエちゃん!」
「—————いーから」
「でも!」
「これは、リナの一世一代の賭なの。邪魔する気?」
 ヒトエがじろりと睨んでくる。それに、エリはすごすごと引き下がった。
 そうこうしてる間も、リナは動こうとしない。
 —————どうしよう、怖い。
 思い出さなかったら。彼女じゃなかったら………そんな不安が胸を過ぎる。後悔、するかもしれない。お互いに。
 だけども、迷ってる暇はなかった。自分が、この姿でいられるのは短い時で、それだけでも、ヒトエに多大な負担をかけている。
 リナは小さく息を吸うと、ぽそりと告げた。
『目覚めよ』
 それだけで伝わると、祈って。


 オリビアの身体がびくりと反応する。閉じられていた瞳が、ふっと持ち上がると、目の前に立つリナと視線が交わった。
 情けなさそうな瞳。—————また、こんな表情をさせるのね。
 オリビアは、そっと腕を持ち上げると、リナの頬を包んだ。そのまま引き寄せると、額をこつんとぶつける。
「………………?」
『久し振りね、リナ』
 軽やかな声で、そう告げる。その一言で、泣きたいぐらい切なくなった。

続き