Solitude



 ちょうど出し物が始まる所なのだろう。客席は、ざわめいていた。幕が開き、舞台には彼女一人だけが、立っているのを見ると。観客達は、口々に、あまり上品じゃない言葉ではやしたてる。
 しかし、それも彼女が歌い出すまでの事。--------リナは、それを知っている。
 彼女が深々と礼をしてから、ひとつ息を吸い込む。それから吐き出されるのは……………彼女の魂。客席はしーんと静まりかえる。ただ、呆然とその歌声に酔いしれていくのが判る。
 リナは、瞳を閉じて、その歌を聴いていた。--------ただ、その歌声だけを。


『リナ!』
 呼ばれる声に振り返ると、いつも彼女が立っていて。つかつかとこちらに歩み寄ってくると、むぅっとした視線で、自分を見上げる。
『………どうか、した?』
 彼女は自分の頬を、そっと包み込む。そして、柔らかく微笑んだ。
『また、神父様と喧嘩したんだって?』
『喧嘩………っていうかさ!わかんないんだもん、聖職者って』
『こーら』
 あたしは、教会でお世話になってるんだよ?
『う〜〜〜〜〜』
 むくれる自分に、子供を宥めるように微笑んで。
『ね、リナの好きな歌、歌ってあげるから』
 だから、あとで神父様に謝りに行こ?ね?
『--------リビ』
 自分は、その身体をそっと抱きしめると、小さく小さくその名を囁いた。

「凄い………迫力」
 隣に佇むエリが、誰ともなしに呟いた。その言葉に、ヒトエは頷く。
 あんなに細い身体に、どうしてこんなパワフルな力があるのだろう。伸びやかで艶やかな高音に、背中がぞくぞくするぐらい。
「綺麗な、声だね」
 だけども、何だか、悲しくなってくるのは何故だろう………?胸がしめつけられるぐらいの郷愁。
「ヒトエ………ちゃん?」
 きゅっと手を握りしめてくる感覚に、エリはちらりと視線を向けた。そして、ぎょっと驚く。
「--------ヒトエちゃん???」
 頬を伝う涙が、目に映って。慌てて、エリは問いかけた。
「大丈夫?どっか………痛い………」
「違う………」
 その声に、視線をあげると、リナの姿が目に入って。その光景にも、目を疑う。
 リナの頬にも、涙が伝っていた。それで、やっとエリは気付く。
 リナとヒトエは身体を共有している。だから、気持ちも共鳴してしまうのだ。--------だから、ここで涙を流しているのは、ヒトエではなくリナの意思で。
「………そーゆーことか」
「エリ………」
 納得した口調で呟くエリに、ヒトエは静かに泣きながら告げた。
「このまま………泣かせてあげて」
 お願いだから………せめて、彼女の歌が終わるまで。
 その言葉に、エリは複雑そうな表情をしたけれど、なんとか頷く。

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