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「そろそろかなぁ」
 ベッドの上で寝転がりながら、ヒロは呟く。その声に、タカは静かに歩み寄った。
「何か言った?」
「んー、うん」
 言ったような言わないような、と続けるヒロに、タカは額をぺちんと叩く。
「もー、そうやって直ぐごまかす」
「そういう訳じゃないんだけども」
 ゆっくりとヒロは起き上がると、タカの髪に指を通した。そのままちょっと力を込めて、胸元に頭を引き寄せる。
「………ヒロ?」
 いきなりの行動に、タカは怪訝な声を出す。その身体を抱きしめながら、ヒロは呻く様に呟いた。
「本当は、連れていきたくない」
 でも、それは出来ないって判ってるから。
 視線を上げると、どこか苦しげなヒロの表情。少し身動ぎをすると、抱きしめられる腕の力が弱まった。
「ヒロ………」
「あたしは、タカが居てくれればいいんだ」
 ただ、それだけなんだ。
「あたしもだよ?」
 ちゃんと判ってるよ、ヒロの気持ち。
 タカの言葉に、ヒロは弱々しく微笑んだ。そのまま、肩に額を押し付ける。
「………でも、もし、あの場所に行って。タカが『戻って』しまったら」
 あたしは、また、君と戦わなきゃならないのかなぁ。
「大丈夫だよ」
 宥める様に、その背をとんとんと叩いた。どこか赤ん坊にするような、優しい仕草だった。
「タカ………」
 ゆっくりと面を上げると、ヒロは情けない表情でタカを見つめた。その頬を両手で包み込んで、タカは鼻の頭にそっと口付ける。
「可愛い」
「………うるさい」
 強がる口調で返すヒロに、タカは微笑んだ。
「あたしは、大丈夫だから」
 だって、こんなにも君に愛されてる。—————それが判っている今、『あの人』ですらこの想いを消すことは出来ないはず。
「これが終っても、一緒にいてくれるんでしょ?」
「………もちろん」
 手放す気なんて更々無い。どんなにもがいても、どれだけ傷付いても、誰かを傷つけたとしても。
「ずっと、ずっとタカの傍にいるよ」
 目の前のたった一人だけに誓う。
 目の前の相手の雰囲気がきりりと引き締まる。素直に、それが『清い』と感じた。その瞳の輝きが、失われないようにと強く願う。
「………タカ?」
 真っ直ぐな視線に、どこか照れた様にヒロは声をかける。それに、タカは小さく首を振った。
「何でもないよ」
「そんな事、訊いてないよ」
「じゃあ、大好き」
「訳わかんない」
 どこか呆れたように呟くヒロだけれども、誘われる様にタカの唇に自分のそれを寄せる。—————触れ合うだけのキスが、ちょっとだけ淋しく感じた。