「誰もが思っていたんだ、今生はコレで終わりだと」
唐突に飛んだ話に、ヒロは訝しげに眉を顰めた。そんな子供に、彼女は口元だけで笑む。
「—————まさか、こんな展開になるだなんて、全てを決めた神様も予想してなかったの」
だから、私がここに来たんだけれども。
本気で何を言ってるのか判らなくて、ヒロは不機嫌な表情を隠さずにその場で足を止めた。そのまま岸にちょこんとしゃがんだままの相手をねめつける。
「怖い怖い」
折角の凛々しい表情が台無しだよ、勇者様。
どこか楽しむように告げる少女に、ヒロの表情はますます険しくなって。
「—————バカにしてる?」
そうされるのが心から嫌いなヒロは、低い声を出した。
「ああ、ごめんごめん」
そんなつもりじゃなかったんだよ?と小首を傾げてから、少女はゆっくりと立ち上がった。真っ直ぐにヒロを見据える。
「聴こえないの?」
あたしには、聴こえるよ。
その言葉に、ヒロは思わず視線を後ろに向けた。もちろん何も見えないし、気配も感じない。そのまま、目を閉じ、聴覚を研ぎ澄ませた。
………ロ、ヒロ。
自らの名を呼ぶ声。………聞き覚えのあるこの声、は。
「まさ、か………」
有り得ない。そんな訳がないのだ。だって、彼女は………。
ヒロは大きく目を見開いた。そのまま、『信じられない』というかのように首を横に振る。
「でも、この声は『彼女』のモノでしょ?」
この世界よりも大事な。
ヒロは頭を抱えて、膝をがくりと落とした。下半身が濡れるけれども、そんなの構ってはいられない。
「だって………でも………まさか」
心に湧き上がる疑問と相反する喜び。しかし、簡単にそれを信じる訳にはいかない。
覚えてる。あの絶望と悲しみを。失ったモノの幻が目の前に現れても、それに簡単に手を出せない程、傷付いて打ちひしがれた心がある。
「切り捨てるのも、戻るのも、あなたの自由」
そんなヒロを見つめながら、少女は告げた。
「その場所から戻るのも、こちらに来るのも」
好きなように、すればいいわ。
その言葉に、ヒロは両手で顔を多いながら深々と息を吐き出して。
「………冷たいんですね」
「私はもう、死んでるから」
あなたとは違ってね。
微笑みながら、そう答える。その言葉に、ヒロはゆるゆると顔を上げた。
「私に、選べというのですね」
「どっちを選ぼうとも、私はあなたを責める気はないし」
そんな権利なんてないんだけれどもね。
今度は声を出して微笑う。そんな少女を見つめながら、ヒロはぼそりと呟いた。
「………本当は、そのまま、そっちに行った方が楽なんでしょうね」
判っているのだ、それぐらい。
だけども、心は決まっていた。