ARE YOU READY?

9



 くたりとなった仁絵を抱き寄せると、汗に濡れた髪をかき上げ、おでこに口付ける。
「--------仁絵ちゃん?」
「………………大丈夫」
 うっすらと瞳を開けると、心配そうに覗き込んでくる絵理子に、柔らかく微笑んだ。その笑顔に、胸がきゅんとなる。
 --------うっわ〜〜、むっちゃ、可愛いよ〜〜〜〜!!
 心でじたばたしながら、今度は頬にキス。そのまま、はずみで手が胸に触れた。だけ、なのに。
「ちょ………っと触らないで」
 仁絵は思わず、声をあげた。その言葉に、絵理子はきょんとする。
「え………あたし、何かした?」
「--------あ、ううん、別に」
 ごにょごにょと呟く仁絵の上に、絵理子はのしかかると、不思議そうに問う。
「絵理………重い」
「どしたの?」
「だから………何でもないって」
 まさか、余韻が残っていて、感じてる、だなんて言えやしない。
 覗き込んでくる視線から逃げるように、首を横に向けながら仁絵は答える。絵理子は目に見えてむーっとした表情をすると、それでもおとなしく仁絵の上からどけた。
 隣に仰向けにごろりと寝転がると、枕元にある時計を引き寄せ、時刻を見る。
「あ………まだ、12時前なんだ」
「どれだけ経ってると思ってるのよ」
 くすくす笑いながら、仁絵は絵理子の肩口にすり寄る。その髪が頬をくすぐるのを、絵理子は幸せな表情で首を竦めた。
「ふわぁぁ〜〜〜」
 大きく欠伸をする絵理子の鼻先を、頬杖をついた仁絵はちょんと突つく。
「うにゃ」
 眠い………。
 お休みモードに入ろうとしている絵理子に、仁絵は声をかける。
「何か着ないと風邪ひくよ?」
「う〜〜〜」
 でも、素肌の感触は心地よくて。
「えーり」
「う〜〜〜ん」
 判ってる………判ってるよ………でも、うん。
 何だか疲れちゃったし、素肌の触れ合いは気持ちいいし、仁絵ちゃんは可愛かったし………だからさ、このまま、寝かせてよ。
 心でそう呟くと、絵理子はゆっくりと意識を手放したのだった。

「………全く」
 すぅすぅと寝息を立ててしまった絵理子の寝顔を眺めると、呆れたように仁絵は呟いた。でも、目はとっても優しくて。
「しゃあないなぁ」
 それでも、自分はちゃんと着替えよう。--------以前、風邪引いたこともあったし。
 手早く、身支度を整えても、絵理子が起きる気配は一向になかった。再び、ベッドに潜り込むと、その隣にすり寄る。
「あ………そう言えば」
 何だか手慣れてる理由、聴くの忘れた。
「今度、とっちめよぅ」
 慌てる絵理子の表情が、容易に想像つく。………っていうか、ホントに、誰かに手ほどきでも受けたのか?それだったら………絶対に許さないんだから! 
 その時の絵理子の表情を想像しながら、くすくす笑うと、仁絵は軽く唇を奪う。
「………おやすみ」
 小さく囁くと、そっと瞳を閉じたのだった。--------絵理子の腕の中で。


………翌朝、『なんで仁絵ちゃんだけ、パジャマ着てるのよ!!』と絵理子の不満そうな声が部屋に響いたのは、言うまでも、ない。




終/戻る