ARE YOU READY?

3



 するりと入り込んでくる手のひらに、思わず仁絵は身を強張らせた。
「--------仁絵ちゃん?」
 その反応に、絵理子は怪訝そうな表情で問いかける。
「あ………あのあの、ちょっと提案、いいかな」
 上目遣いでこちらを見上げる仁絵に、絵理子はそっと身体を離した。
「何?」
 まさか『やめてくれ』だなんて言ったりしないよね。
 そう瞳が語りかけていた。仁絵はそれにぐっと身を引くと、
「シャワー浴びて………いいかな?」
 小さく呟いた。絵理子は一瞬、目を丸くするが、すぐに照れたように笑う。
「あ………うん、そうだよね」
 言われてみればそうだ。
 絵理子は納得したように頷くと、仁絵の頬に軽く唇を当てる。
「-------- 一緒に入る?」
 どがぁ!
 一秒後には、頭を抱えて蹲っている絵理子と、足音高くバスルームへと去って行く仁絵がいた。


「………どうしよう」
 シャワーを浴びながら、仁絵は呟く。
 いや、どうしようもこうしようもないのだが。どうして、こんな展開になるのか、正直自分でも判らない。
 絵理子の事は嫌いじゃない。むしろその逆で。逆だからこそ、こんな風に躊躇してるのであって。
 里奈との時は、単なる好奇心とちょっとした逃げだった。だから、そんなに罪悪感を持たずに済んだ。しかし、絵理子の場合は別である。
 好きで好きで大好きで。絶対に手に入らないと信じていたモノが、あっさりと手に入ってしまったあっけなさ。それが仁絵を躊躇させてるのかも、しれない。
「--------言い訳、だよ」
 頭からシャワーを浴びると、仁絵は更に自嘲気味に呟いた。
 絵理子に抱かれたくない訳ではない。--------だけど、里奈の事がどうしても引っかかる。
 嫌われはしないだろうか?呆れたりしないだろうか?--------それが、怖い。
「今更………後には引けないよなぁ」
 細く長い溜息をつくと、仁絵はシャワーをキュッと止めたのだった。


「--------う〜〜〜〜」
 檻に入ったクマのように、絵理子はうろうろと歩き回っていた。
 落ち着かない、どうやっても落ち着かない。当たり前だけど。
「が〜〜〜〜〜」
 ばりばりと頭をかきむしると、絵理子はぱたりとベッドに倒れ込んだ。そして、瞳を閉じる。
 勢いで言ってしまったけど………どうしよぅ〜〜〜〜。
 冷静な表情をして、実はうろたえていた絵理子だった。
 でも、やめる気はないのだ。だって、こんなにも仁絵を欲している。
「--------好きだよ」
 だから、いいよね?
 絵理子は小さく呟くと、そっと瞳を閉じたのだった。
 




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