promise



「ごめん、今、いいかな?」
 ひょこんと顔を覗かせたのは、ヒロだった。ヒロに姿を知られていないリナは、一瞬にして姿を消す。
「………あれ?」
「なに?」
 すらっとぼけるヒトエとエリを後目に、首を傾げながら、ヒロは、
「おかしいな………聞き覚えない声、聞こえたんだけど」
「気のせい!」
「そう、絶対に、気のせい!」
 勢い込んで告げる2人に、訝しげな目を向けたが、直ぐにいつもの瞳に戻ると、
「あ、ちょっと、防具屋に行ったんだけど、どうも、防寒具、今品切れらしくてさ、後、2〜3日待ってて欲しいって」
「あ〜〜〜〜、やっぱそうか」
「仕方ないね」
 前髪をかきあげながら、エリは呟く。その隣で、ヒトエも頷いていた。
「永久凍土といえども、こんなに荒れるのは、ここ数十年なかったらしいし。『よく、ここまでたどり着けたな』って言われちゃったよ」
 苦笑いしながら、ヒロは答える。それに、ヒトエとエリはちらりと視線を交わした。
————ヒロには、神の加護がついている。『勇者』という名の下に。
「ま、ということで、骨休めだね、つかの間の」
「————そだね」
 ま、のんびりすごしましょうや?
 ひらひらと手を振って出ていこうとするヒロに、同じように手を振り返しながらヒトエは答えたのだった。


 部屋に戻ると、タカが窓の外を眺めていた。その姿は、なんだか儚げで、思わず、ヒロは入り口に佇む。その気配を感じたのか、タカは静かに振り返った。そして、綺麗に微笑う。
『ヒロ』
 声は聞こえないけれど、そう呼んでるのが判る。ヒロは、ゆっくりとタカの元へと歩み寄ると、その背をくるむように抱きしめ、一緒に、窓の外を眺めた。————目に映るのは、一面の雪原と、舞い狂う雪。
『………………何だか、怖い』
 全てを覆い尽くす雪。その白さが、怖い。
 呟くタカに、ヒロは抱く腕を強くした。
「大丈夫だよ」
 あたしが、いるよ。
『………うん』
 判ってるんだけど、でも………何か、自分を呼んでるようで。
 ヒロはその綺麗な首筋に顔を埋めると、呻くように呟く。
「そんなこと、言わないでよ………」
 なんか、あたしまで不安になってくるじゃない。
 悲しげに呟くヒロに、タカは小さく『ごめん』と謝った。ヒロは、その言葉に首を振る。
「謝って欲しいわけじゃないよ………」
 ヒロはタカを自分の方に向かせると、こつんと額をくっつけた。
「誰がタカを奪い去りに来ても、あたしは絶対に、渡す気は、ないんだ」
 ワガママと言われようと、子供だと言われようと。自分自身で見つけた、その『宝物』を誰かに奪われるなんて、想像しただけで気が狂う。
『………ヒロ』
「たとえ、タカが何もかもを思い出して、あたしの元から離れようとしても」
 嫌がっても、拒んでも………放さない、そう決めてる。
 額にそっと口づける。
『そんなこと………ないよ』
 瞼に、キス。
「————判らないよ」
 これから先、どうなるかなんて。
『絶対に、ない』
 頬に、キス。
「………………」
『もしそうなったとしても………あたしは、今の記憶を思い出して、絶対にヒロの所、帰ってくるから』
 そう囁くと、今度はタカから唇に、そっと口づけた。

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