Pain
01
————キーンコーンカーンコーン。
「やっと終わった〜〜」
終了のチャイムが鳴り響くと同時に騒ぎ出す教室で、島袋寛子は小さく呟いた。隣の級友がそれを聞きつけて相槌を打つ。
「ほんと・・・・・・長かったよね〜〜」
中学に入ってからの初めてのテスト。寛子達の学校は、2期制だから今回のテストは中間試験となる。主要教科五科目とはいえ、やはり一週間の長丁場は辛い。
「まぁ、コレ終われば、あとは夏休みを迎えるのみ!」
ギュッと握りこぶしを作り宣言する誰かに、寛子も含めクラスの全員が頷いた。
「あ〜〜〜〜、つっかれた〜〜〜。寛子、どっかに寄ってく?」
ガタガタと椅子を鳴らして立ち上がる寛子に、クラスメイトは問う。
「ごめん、あたし、先に帰る」
片手を立てて肩を竦めながら謝ると、鞄を掴み、さっさと教室を出て行く。それをきっかけに、クラスメイト達も口々に何かを言いながら、教室を出て行ったのだった。
「寛ちゃん」
昇降口で靴を履き替えていると、幼馴染みである今井絵理子がひょこんと顔を覗かせた。寛子はそんな幼馴染みに笑いかけながらも、周囲をきょろきょろと見回す。
「どしたの?」
長い綺麗な髪をさらさらとなびかせながら、絵理子は小首を傾げる。寛子は口元に親指を当てて答えた。
「————多香ちゃんは?」
『多香ちゃん』とは寛子のルームメイトであり————寛子達が通っている学校は中高大一貫教育の全寮制である————絵理子の姉であり、そして、絵理子には内緒だが、寛子の想い人でもある上原多香子の事である。
多香子と絵理子は同じクラスなので————姉妹なのだが、事情があるらしい————普段ほとんど一緒に行動しているのである。
「あ、多香ちゃんだったら」
罰悪そうな顔をそいて、絵理子は言いよどむ。寛子は促すように、小首を傾げた。
「もしかして、多香ちゃんと約束してた?」
絵理子の言葉に、寛子は小さく首を振った。忙しくて、そんな暇、ありゃしなかった。
それにあからさまに絵理子はホッとした表情になる。
「で、多香ちゃんは?」
「————今日の数学の為に完徹しちゃったんだって。『も〜〜耐えられない。寝る』って、テスト終わると同時にそっこー寮に帰った」
『だから、計画的に勉強しろって言ったのに・・・・・・」
寛子は溜息をつきながら、ごちた。それにくすくす笑いながら、絵理子は寛子を促し歩き出す。
「でも、何か信じられないな」
てくてく歩きながら、絵理子は呟く。それを聞きとがめて、寛子は『ん?』という表情をした。
「だって、1ヵ月前まで2人、すっごく仲悪かったのに・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
寛子は絵理子から微妙に視線を逸らした。————まさか、本当の事を言えるわけがない。
「絵理ちゃん、今日暇?」
「うん、暇だよ?」
頷く絵理子に、寛子はにっこりと告げた。
「じゃ、テストの打ち上げってことで、どっかよっていこうか?」
「うんうん」
寛子の腕にしがみつき、絵理子は嬉しそうに笑う。同じようにはしゃぎながら、2人は下校したのであった。
「・・・・・・今、何ていったの?」
口にストローを咥えたまま、寛子は絵理子に問い返した。絵理子はポテトをぽいっと口に放り込むと、
「告白されたんだけど、どうしたらいいのかな?って訊いたんだけど」
平然とした表情で答える。その絵理子とは正反対に、寛子はがたっと立ち上がった。
「どしたの、寛ちゃん?」
「————どうして、そんなに平然でいられるわけ?」
困ったように眉をしかめながら、口を尖らせて寛子は問うた。絵理子は寛子を見上げながら、またもや平然とした表情で爆弾発言をしてくださる。
「だって、コレがはじめてじゃないもん」
「絵理ちゃん・・・・・・あんた・・・・・・」
寛子は席にすとんと腰掛けると、呆れたように溜息をついた。絵理子はそんな反応に、むうっと頬を膨らませる。
「なによ〜〜〜、寛ちゃん」
「いや・・・・・・ちょっと・・・・・・頭痛が・・・・・・。で、どうするつもり?」
「どうするって?」
ほへ?と言う感じで問う絵理子に、
「告白のことだってば!」
思わず寛子は叫び返したのだった。