迷子にさせないで

前編

 

「ヒロちゃん・・・・・・もうここには、何も無いみたい」

 ヒトエはくるりと振り向くと、ヒロに告げた。前髪をかきあげながら、ヒロも軽く頷く。

「そだね・・・・・・エリちゃん、そっちはどう?」

 少し離れていたエリは、ヒロの声にパタパタ駆け寄ってくる。

「ううん、特に何もないよ」

「じゃあ帰ろうっか?MPも残り少ないし、朝からずっと洞窟だったしね」

「あたしはお宝がたくさんあって嬉しかったけど」

 大きく伸びをしながら、『シーフ』のヒトエは微笑う。その隣で、エリは複雑そうな表情をしていた。

「じゃ、出るよ。タカちゃ〜〜〜ん」

 ヒロの声に、離れた場所にいた『魔法使い』のタカはたたたたと駆け寄ってきた。

「何かいいものあった?」

『ううん』

 ヒロの問いに、タカはぶんぶんと首を振る.あまりにも可愛いその仕草に、その場の雰囲気は一気に和んだ。

『?????』

 自分に向けられる視線に怪訝な表情をするが、それには『何でもないよ』という感じで全員が首を振る。

「じゃ、帰りましょうか?」

 ヒロの言葉に、ヒトエとエリはそれぞれヒロの身体に触れる。

『脱出』の魔法や『移動』の魔法はそれを詠唱する者の何かに触れていなければ、その恩恵に預かれないのだった。

「では・・・・・・『脱出』!」

————しかし、その時にちゃんと確認していなかったのを、ヒロは後に悔やむことになる。

 

「もう、日が暮れる時間なんだ」

 日が入らない洞窟では、時間感覚がかなり来るってしまう。洞窟を出たエリが驚いたように呟いた。

「早く街にかえろ〜よ〜〜〜」

 ヒトエの言葉に、ヒロは周囲を見回しながら、

「タカちゃん!」

 おもわず上ずった声をあげる。ヒロのハイトーンボイスに、エリとヒトエは怪訝そうにヒロの周囲に集まってきた。

「どしたの、変な声だして?」

「何かあった?」

 口々に問い掛ける2人に、ヒロはぽそりと呟いた。

「タカちゃんは・・・・・・?」

「え・・・・・・?」

 ヒロの言葉に、ヒトエとエリは慌てて周囲を見回す。しかし、何処を探してもタカは見つからなかった。

 散々探し回った後、3人は顔を突き合せる。

「————まさか」

「その・・・・・・まさか、かなぁ?」

 ヒトエの言葉に、エリは恐る恐る返す。

「タカちゃん・・・・・・洞窟に、置いてきちゃった・・・・・・とか?」

 2人は顔を見合わせ『あはは』と笑う。だけど、そう言っておきながら、心は酷く寒かった。

「あの洞窟・・・・・・地下何階まであったっけ?」

「————10階ぐらいかなぁ」

 そう言うと、二人は『ふぅ』と溜息をついた。その会話を聞きながら、ヒロも同じように溜息をつく。そして、1つ頷くと、くるりと方向変換をした。————即ち、先ほどまでいた洞窟へと。

「ヒロちゃん!」

 エリとヒトエの声に、ヒロは振り向いた。そして、微笑みながら告げる。

「エリちゃんと、ヒトエちゃんは戻ってって。疲れてるでしょ?」

「————ヒロちゃんだって、同じじゃない!」

 ヒロの言葉に、ヒトエは怒鳴った。それに、ヒロは首を振る。

「呪文詠唱した時に確認しなかったあたしのミス。だから、あたしが行くよ」

「・・・・・・ヒロちゃん、もうほとんどMPないのに・・・・・・」

「出来るだけ魔力は温存するから。今日一日でレベルも上がったし・・・・・・」

 そんなヒロにつかつかとエリは歩み寄る。そして、その頬を思い切り叩いた。ヒロは呆然と頬を押さえる。二人のやり取りを見ていたヒトエもこれには驚いた。

「————そんな事、言ってるんじゃないよ!何勝手に決めてるの!?ヒロちゃんもタカちゃんも大切な仲間なのに!どうして、何もかも1人で背負おうとするのよ!」

「エリ・・・・・・ちゃん」

 エリはヒロの胸にこつんと額をくっつけた。そして、ぼそりと囁く。

「そんなこと、言わないでよ、お願いだから」

「・・・・・・ごめん、エリちゃん」

 泣き出すエリの髪を困った表情でよしよしと撫でる。

「じゃ・・・・・・行きましょうか?————タカちゃん、見つけたら、思いっきり叱ってやらなくっちゃ!」

 ヒトエの軽口にヒロとエリはプッと吹き出した。そして、うんと頷くと元の場所へと戻っていったのだった。

 

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