MAGIC


「おっじゃま〜〜〜」
 律子がドアを勢いよく開けて中に入ったのに続いて入ろうとした玲奈は、いきなり歩みを止めた律子の背中にぶつかる。
「りっちゃん!」
「し〜〜〜〜」
 律子は振り返ると、口元に指をたてて『黙って』という仕草をした。それに、訝しげな表情をして、玲奈は律子の肩越しに室内を見回す。
————ばちっ!
 ソファに腰掛けている副会長と、いきなり視線があった。美奈子は一瞬、目を丸くしたが、すぐに微笑んで会釈する。
「こんにちわ」
「………あ、どうも」
 ぺこり、と慌てて頭を下げる。顔をあげて、その光景が現実なモノだと頭が認識して、思わず玲奈の動きは止まった。それには、全く構わず、律子が静かにソファに歩み寄る。
「————良く、寝てるね」
「うん………そろそろ生徒会の引継とか考えてるみたいだからさ。人選で疲れちゃったみたい」
 美奈子の肩を借りて、『くーくー』と安らかな寝息をたてている奈々子を起こさないように、美奈子は小さく答えた。
「もともと美人さんだけど、寝てても美人さんだね〜〜〜」
 キスしちゃえ、ん〜〜〜。
 寝ている奈々子のほっぺたに、律子は軽くキスをする。
「こら」
 その頭をぺしっと叩くと、美奈子はじろりと律子を睨み付けた。それに、律子はぺろっと舌を出す。
「だってさぁ、ナナさん、かわいいんだもんよ」
 そう思わないかい、玲奈?
 くるりと振り返った律子の目に映るのは、目をまん丸くしてる玲奈だった。
「おーい、玲奈〜〜〜」
 ひらひら。
 目の前で手を振る。それにも気付かず、呆然としたまま、呟いた。
「————綺麗」
「へ?」
 今、何て言いました?玲奈さん?
「………無茶苦茶、綺麗」
 この間、屋上であった時には気付かなかった。こんなに、こんなに整った顔してたんだ。目が奪われる、というのは、こういう状態のことをいうのだろう。
「ちょ………ちょっと玲奈」
 あんた、一体何言ってるのよっ?
 律子の言葉は、耳に入らなかった。ただひたすらに、視線が彼女へと向かう。
「あらららら」
 美奈子がくすり、と微笑う。その微かな振動に、ぴくり、と奈々子の身体が動く。
「あら?」
「あーあ」
 もうちょっと寝顔見たかったのになぁ。寝てる時ってむっちゃ可愛いから、ナナさん。
 そんな声が聞こえたのか、聞こえないのか、奈々子はむにゃむにゃと目元をこすった。そして、『くわぁ』とひとつ大欠伸をして。
「おはよう、奈々子」
 優しい美奈子の声に、ぱっちりと目を開くと
「あ〜〜〜〜、おはよ〜〜〜〜、美奈」
 にこぉ、と微笑ったのだった。
————その笑顔が、玲奈への決定打になったのだった。


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