「ああ、ごめんごめん」
律子がパッと手を放すと、少女はわざとらしく喉元に手を当てた。
「わざとらしっちゅーの」
更にぼかりと叩かれている。それを奈々子は呆然として見ていた。
「奈々さん?」
ひらひらと目の前で手を振られ、ハッと我に返る。
「どうしたの?」
律子が目の前できょとんとした表情をしていた。あまりのどアップに、思わず身を引く。
「あら、残念」
いっそのこと、唇奪っておけば良かったわ。
呟く律子に、美奈子の鉄拳が下る。
「痛い、いったいよ、ミーナ!」
子供のように喚く律子を見て、奈々子はふわりと微笑った。
………………ドキリ。
その笑顔は、余りお目にかかれないので、律子の胸は何だか高鳴った。唇を尖らせ、それを隠す様に表情を作る。
「何で笑うの?」
「………いや、何かね、りっちゃんが知らない人に見えてさ。でも、うん、やっぱ、りっちゃんはりっちゃんだって納得しただけ」
「————はぁ」
判ったような判らない様な説明に、一応、律子は頷いた。でも、よくよく考えてみると………。
これって、あたしのこと、少しは気にいってくれてる、って事だよね。
「へへっ」
嬉しそうに笑う律子の後ろを、そっと後輩が通り過ぎようとする。だけど、それを見逃す律子ではない。
「こら、ちょっと待った」
がしぃ!
再び、襟首を掴まれ、じたじたしてる1年生に、今度は美奈子も奈々子も苦笑する。
「なに〜〜〜、見逃して〜〜〜」
「………あんた、また、サボったね?」
その言葉に、少女はぐっと詰まった。そっぽを向く少女を、奈々子と美奈子の前に突き出しながら、律子は告げる。
「奈々さん、ミーナ、これ、あたしの小学校の時やってた琉球空手のクラブの後輩。高等部からの編入生。名前は………」
ほれ、自己紹介しな!
「宮内、玲奈です」
ふてくされた表情をしながらも、少女は自己紹介をする。
「こっちのショートヘアの美人さんは、あたしのまいすいーとの沢詩奈々子さん」
「こらこらこらこら」
誰が『まいすいーと』だ、誰が!
奈々子の訴えを無視して、次は美奈子の方を向く。
「で、こっちが天久美奈子。同じクラスだし、同室だし見たことあるでしょ?」
「………あ、うん」
こくり、と頷く姿はクールな外見と裏腹に、何だか可愛く思えたりして。
奈々子は心でくすり、と微笑った。
「で、現生徒会長と副会長」
「げっ!」
律子が続けた言葉に、玲奈は『がびん!』という表情をする。それには、とうとう奈々子も美奈子も爆笑してしまったのだった。