「ふんふふふふふふん、ふふふふふんふ〜♪」
オクラホマミキサーを鼻歌で口ずさみながら、彼女はいつも通り管理人から借りた鍵で、部屋のドアのロックを解く。
そして、一応は、「おじゃましま〜す」と、声をかけ入った。この部屋の主は、今日は帰りが遅いのは承知済みである。
「取りあえず、コーヒーでも入れるかね」
良くある1LDKのマンションの間取り。玄関を入るとキッチン。それに繋がる8畳ほどのリビングと同じく8畳ほどの和室。一人で住むには十分なくらいの広さである。
少々暗くなったキッチンを通り抜けると、荷物を置きにリビングへと向かった。
リビングに入ると、勝手知ったる他人の家。明かりをつけようと、スイッチへと手を伸ばす。
パチリ。
「ん?」
何かが違う。
眉を潜めながら、記憶と現状の部屋を比べて見る。そして、その違いに気がついた。
普段だったらソファになってるソファーベッドがベッドになっている。そして、それが人が寝てる形に盛り上がっていた。
「????」
一体、どゆこと?
しかし、好奇心旺盛な侵入者は、つかつかとそこに歩み寄ると、布団を剥いだ。
そこから現れたのは・・・・・・・。
「えええ〜〜〜〜?」
思わず侵入者は声を上げる。慌てて口を手で塞いだが、もう遅かった。
「ん・・・・・・・」
その声に目を覚ました人物は、その容姿にふさわしくなく『ふわぁぁぁぁ』と大きな欠伸をしながら伸びをすると、むっくりと起き上がり、侵入者をぼんやりと見ると、
「あれ?どうしたんですか、知念先輩?」
あっさりと告げたのだった。
「・・・・・・で、どゆことかな〜〜〜〜?」
その後すぐに帰って来たこの部屋の主の島袋寛子は、侵入者でありながらそんな事を言う先輩の知念里奈を睨んだ。
「何よ、その目は?」
「・・・・・里奈先輩、ここは、誰の、家ですか?」
「あたしの、た〜いせつな後輩の、島袋寛子ちゃんち」
『きゃ、照れちゃう』なんて頬に両手を当てる姿なんて、この人の性格を知り尽くしている寛子には、とっても気色悪い。
「・・・・・・やめてくれません?」
「まぁまぁ、冗談じゃないの」
にっこりと普段通りに笑う里奈に、寛子は小さく溜息をついた。
「先輩、何度も何度も何度も言ってますよね!私の家に、無断で入るのは、やめてくれって」
「無断じゃないよ。ちゃんと管理人さんに・・・・・」
「私にですっ!!」
寛子の雷が落ちる。それに首を竦めると、里奈は、この場を心配そうに見ている少女に視線を向ける。
「それより、どういうこと?なんで、彼女がここにいるの?なんで、ソファベッドで寝てるの?ねぇねぇ〜」
ああ、だからこの人には知られたくなかったんだ・・・・・・。
寛子はちらりと、視線を隣に向けた。1週間前から、理由があって同居することになった上原多香子は、すまなさそうな瞳で寛子を見ていた。
「ねぇ、寛子〜〜〜〜」
「ああ、もう、うるさい!」
寛子は、里奈の手をぐいぐいと引くと、玄関の外へぽいっと追い出す。
「ちょ・・・・・ちょっと・・・・・・あんた、先輩に、何を・・・・・」
最後まで言葉を聞かずに、ドアをがしゃりと閉めた。もちろん、チェーンロックも忘れずに。
「先輩には関係ないですっ!も〜〜〜、とっとと出てって下さい!」
「っていうか、もう追い出してるくせに〜〜〜」
その言葉を無視して、寛子は更にリビングの引き戸をバシリと閉めた。
そして、未だにすまなそうにソファベッドに座っている多香子を、じっと見つめる。