「ひゃ〜〜〜〜、かっわんないなぁ」
寮の管理人室に顔を出し許可をもらってから、玲奈は寮内を散策する。
年明けにも遊びに来たけれども、それはもう一瞬しかいなかったし。
土曜の午後とあってか、人の気配はあまりない。だけども、擦れ違う生徒達は玲奈を見て『この人誰?』と視線を向けている。
「や〜〜〜〜、ほんと変わらないなぁ」
しみじみと呟きながら、玲奈は腕を組む。
自分は高等部からの編入生だから、ここで暮らした時間は3年間だけれども、この場所が或る意味『自分を育ててくれた場所』と言い切れる。
「まぁ、卒業して5年経ってるからなぁ」
知り合いが誰もいないっていうのは、痛い。かわいがっていた後輩は、今年の春、卒業してしまったし。
「つっまんないなぁ」
そう呟きながらぷらぷらとよそ見しながら歩いていたもんだから、両手に服を抱え持ってよたよたと歩いていた少女にぶつかってしまった。
「わっ!」
「うわぁ!」
玲奈は危うく転ぶのを免れたが、少女の方は手にしていた服をばさばさっと落としてしまって。
「………あーあ」
折角アイロンかけたのになぁ。
そう呟きながらしゃがみ込む少女に、玲奈は素直に謝った。
「ごめん、ぼんやりしてた」
少女と同じようにしゃがみ込むと、綺麗にアイロンがかかってる服を手早く拾った。
「いえ、こっちもぼんやりしてたんで」
少女は一礼すると、玲奈の顔をやっと見た。その顔に、玲奈は『どこかで見たことあるなぁ』と考える。
きりっとした一重の瞳は凛々しい印象を与えていて。すっきりとした頬のラインに、肩先まで伸びた黒髪。
全体的にすらっとした印象を与える少女だった。
「—————えーと、どっかで逢った事、あるっけ?」
「や………えと、………さぁ?」
小首を傾げる少女を、玲奈はまじまじと見つめる。その勢いに、少女は思わず身を引いた。
「こーんなかっこいい子、一回逢ったら忘れないと思うんだけどなぁ」
なんだなんだ、この人は?どうも大学生っぽいけれども、初対面の人間に、普通さらっとそんなこと言うか?
少女はぐるぐると考える。
「あの………えと………ちょっと、用があるんで」
これで失礼します!
そう告げて去ろうとする少女の襟首を、玲奈はがっし!と掴む。
「あ………あのあの」
「まぁ、いいじゃない。—————荷物もってあげるからさ」
部屋、何号室?手伝ってあげるよ。
にかっと微笑う玲奈に、少女はぶんぶんと首を横に振る。
「けけけけ、結構です!」
知らない人について行っちゃダメって、おかーさんが!
なんて支離滅裂な事を告げる少女に、玲奈は『何馬鹿なこと言ってるの、君』とおおいに受けて。
「先輩に、遠慮なんてしなーい」
けらけら笑いながら、玲奈は少女の手から洗濯物を奪い取ると、『ほら、部屋番教えて』と先だって歩き出したのだった。