一途な恋
9
1人ヒトエの部屋に向かいながら、エリはつらつらと思う。自分がこの場にいる意味を。
しかし、幾ら考えても答えが出る訳もない。判っているのに、考える事を止められなかった。
エリは立ち止まり、両手をじっと見つめる。
「強く・・・・・・なりたいなぁ」
何にでも立ち向かえるくらい、どんな困難にも打ち破れるぐらいに。だけど、今の自分は弱くてちっぽけな存在。
何の為に誰の為に強くなりたいのか?そんなの最初っからわかっている。————たった一人の大切な人の為。
ひとりよがりと言われようと構わない。相手が変わるのを望む前に、自分が変わらなければ。
エリは小さく息をつくと、ふいっと階下へと方向変換したのだった。
ヒトエはベッドにごろりと寝転がりながら、ぼんやりと天井を眺めた。
どう言えば、自分の気持ちを判ってもらえるのだろう?こういう時、素直じゃない自分が嫌になる。
「タカちゃんやヒロちゃんみたく、素直になれたらなぁ」
でも、ダメだ。あんな風には絶対になれない。ひがんでいるとかではなく、自分に出来る事と出来ない事の見極めがついているだけ。
『ほんと、天邪鬼なんだから』
くすくす笑いながら、エリはいつでもそう言った。言葉にしなくても、態度や表情で。それには、突っ張るのが常だった。だけど、相手はそれすらお見通しで、くすくす笑いの後には、必ず唇が落ちてきた。————それを拒むだなんて、出来やしなかった。
『好き』と自覚する瞬間なんて、山程あった。なのに、気持ちを間違った方法で伝えてしまった。
「————どうすれば、戻れるんだろ?」
この気まずい雰囲気から。結局、どっちが悪いのかも不安定な関係から。
エリはただ自分の不安を口にしただけ。ヒトエはただ素直になれなかっただけ。
————ただ、それだけなのに、こんなにも悲しい。
両腕を交差させ、ヒトエは切なく思う。そんな時、不意に部屋のドアがノックされた。
「はい?」
「・・・・・・あたし————エリだけど」
ヒトエは思わず起き上がった。そして、ドアに駆け寄りそうになるのを懸命に堪えた。
————こんな所が、可愛くない。
自嘲しながら、ドアを開こうとした。その気配を察し、エリは思わず叫ぶ。
「開けなくていいから!」
「え・・・・・・?」
ヒトエは戸惑った。戸惑いながらも、その通りにする。
「何か用?」
だけど、声が少し震えた。震えを感じ、エリはこつんとドアに額をつける。
「ヒトエちゃん・・・・・・あたし・・・・・・」
「え?」
ドアに背を当て————そうしなければ、ドアを開いてしまう————ヒトエは続きを促す。
「あたし・・・・・・『賢者』になるから」
暫くの沈黙の後、エリは告げた。