一途な恋
7
————その頃、タカは・・・・・・。
ある店のドアを開いていた。次の瞬間、視線がこちらに集まるのが判る。
『ヒュ〜〜〜』と口笛を鳴らしながら、見るからにガラが悪そうな男達がタカへと歩み寄ってきた。
「どうしたんだい、お嬢ちゃん」
「こりゃ〜〜別嬪さんだなぁ」
『ケケケ』と下卑た笑いが起こる。しかし、タカはそれらを完全に無視すると、きょろきょろと周囲を見回している。
その態度は男達の神経を逆撫でしたらしい。ざわっと男達の気配が逆立つ。
「シカトしてんじゃねーよ!」
タカの肩に、手が触れようとした瞬間、『バシィ!』と鈍い音が響く。真っ赤に腫れ上がった手を押さえて蹲る男達を気にも止めず、タカは2階へと通じる階段を見上げた。
「————やめな」
案の定、視線の先にはヒトエがいた。ざわめいていた気配がすぅっとおさまる。どうやら、ヒトエはここでは
————『シーフ』の溜まり場なのだが———— 一目置かれている存在らしい。
ヒトエはワザとらしく、足音立てて階段を降りてくる。視線を男達にめぐらすと、彼らはすぐさま身を引いた。
タカにしてみれば、精一杯作っている表情でタカに歩み寄ると、
「・・・・・・何でタカちゃんがここに来るのよ?」
少し怒った口調で、ヒトエはタカの耳元で囁いた。タカはその手を掴み、にこりと微笑う。
『やっぱりここにいた』
「どうして・・・・・・」
こちらを窺う興味深々といった視線に気付き、ヒトエはその手を引っ張る。
『どこいくの?』
「2階!」
簡潔に答えると、急ぎ足で階段を駆け上がったのだった。
「なんで、ここが判ったの?」
狭いがシンプルに整頓された2階の1室に入るなり、ヒトエはタカに歩み寄った。タカはじっとその目を見返しながら、あっさりと答える。
『気配で』
「・・・・・・気配でって・・・・・・タカちゃん」
その肩に手をのせ、ヒトエは思わずがくりとなる。魔力無いヒトエには、その感覚は絶対に判りえない。
『ね・・・・・・かえろ?』
タカの言葉に、ヒトエは首を振った。
「————今は、帰れないよ」
ぶっきらぼうに呟くヒトエに、タカは再びあっさり告げる。
『エリちゃんと喧嘩したから?』
「喧嘩じゃない!」
噛み付きそうな勢いで、ヒトエは怒鳴った。その態度に思わずタカはびくりと身を強張らす。
「ご・・・・・・ごめん」
『ううん』
タカは振るフルと首を振った。困った様に眉をしかめ、ヒトエの顔を覗き込む。
『・・・・・・どしたの?』
タカの綺麗な瞳が目の前にあった。エリとは違う意味で、綺麗な眼差し。
「タカちゃんは・・・・・・」
『ん?』
思わず言葉がついて出た。
「どうして、そんな強くいられるの?」
『あたしが・・・・・・強い?』
心から不思議そうな顔をする。ヒトエは口ごもりながら言葉を紡ぐ。
「え〜〜とね、う〜〜ん・・・・・・心が」
『???』
ますます判らないという表情をする。ヒトエはう〜〜んと天井を見上げ、言葉を捜した。
「だから・・・・・・どうして、そこまでヒロちゃんを信じきれるのかなぁって思って。———不安にならないの?」
『なるよ』
これまたあっさりと、タカは答えた。ヒトエは再びガクリとくる。
「だったら、何で?」
『————好きだから、かなぁ?』
タカの答えに、ヒトエは目をそらした。きっぱりと言い切れる、その強さが眩しい。
「それだけで・・・・・・」
『???』
「それだけで、信じられる程・・・・・・あたしは強くないよ」
深々と息をついた。
『言葉っていうのは』
「えっ?」
『————難しいよね』
タカは視線を上げると、ヒトエを見つめた。何も言えなくて、頷くことしか出来なかった。
タカは何とも言えない大人びた微笑み————こんなタカは初めて見る————で応えると、近くにあった椅子にちょこんと腰掛けた。つられて、ヒトエも隣に腰掛ける。