LOVE IS HERE 

 

「絵理子の・・・・・・・お姉さん?」

 その問いに、手当てを済ませた少女と絵理子は頷く。寛子は2人を交互に眺めたが、全くと言って良いほど似てない気がする。

「だって、あたし知らない」

 幼馴染みの寛子の言葉に、絵理子は寂しそうに微笑った。

-----------あたしが5つのときだから。そっか・・・・・・・もう7年も逢って無かったんだね」

 絵理子は少女-------上原多香子と言うらしい--------に視線を向けると、幸せそうに微笑んだ・絵理子の視線に、多香子も微かに笑う。

 寛子は自分の椅子に腰掛けながら、ぼんやりと2人を眺めた。絵理子は凄く嬉しそうな表情をしているけど、多香子の方はあまり表情は変わらない。だけど、先程自分と話している時の表情より、ずっと嬉しそうなのは、鈍感な寛子にだって判った。

「—————『上原』って名字が変わったってことは、母さん、再婚したんだ」

「・・・・・・・うん」

 ————おや?

 絵理子の問いに答える多香子に陰りが走った。

「ちょ・・・・・」

 寛子の言葉は、不意に向けられた視線に奪われる。大きくて、吸い込まれそうな瞳。視線を逸らすことが、出来ない。

「な・・・・・・・・何?」

「—————あなたの、名前。聞いてないんだけど」

「え・・・・・・えーと」

「彼女はね、島袋寛子ちゃん。あたしの幼馴染みなんだよ。多香ちゃんも、仲良くしてね」

 フローリングに座り込んでいた絵理子が立ち上がり、寛子の肩に腕を回しながら、明るく告げた。

・・・・・・・・・絶対に、イヤだ。こんな性格悪いヤツ。

 助けてもらってもお礼もいわない、こちらが礼を言っても無視するだけ。それより何より。ニコリともしないその態度に腹が立つ。

 そう思ってるのを知ってか知らないのか、絵理子はにこにこと笑っている。

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

 黙りこむ2人を気にせずに、絵理子は腕時計を見て続ける。

「あ、もうこんな時間だ。じゃあ、あたしも自分の部屋行くね」

 ドアを開き出て行きかけた絵理子は、ふと足を止めると、くるりと振り返った。

「ん?」

「・・・・・・・・どしたの?」

 絵理子は多香子に真っ直ぐ視線を向けると、

「また、後で遊びにきても、いいかなぁ」

 甘える口調に、多香子は軽く頷いた。それに『にこぉ』と笑うと、バイバイと右手を振って絵理子は今度こそ出て行った。

「・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・えーと」

 2人きりになり、一気に場が暗くなった気がした。寛子は、それから逃げるように部屋の隅に置いてあるダンボールを片付けようと立ち上がる。

 そんな時、不意に背後から声がかかった。

「島袋さん」

「————寛子でいいよ」

 振り向きもせず寛子は答えた。その背に、多香子は更に続ける。

「あなたを名前で呼ぶ義務は、私にはないもの」

 何だとーーーーーーーーーーー!

その言葉に、寛子はとうとう切れた。勢いよく振り返ると、多香子につかつかと歩み寄る。

「あのねーーー、あたし、何かした?」

「・・・・・・・・・・」

 そんな寛子を多香子は、静かに見返した。冷静な瞳が、更に寛子の感情を煽る。

「逢ったときから、そうだよ!お礼言っても何の反応も無い。助けてあげたのに、お礼のひとつもない」

「助けてなんて、言ってない」

「ああ言えば、こう言う!」

 一旦言葉を切り、髪をくしゃくしゃとかき乱すと、大きく息をついて寛子は告げた。

「—————折角、同室になったんだから・・・・もうちょっと打ち解けてくれても・・・・・・・」

「同室だからって、仲良くしなければならないの?」

 多香子は冷たく返した。寛子は口を開きかけたが、言葉が見つからない。

「だから、干渉しないで欲しいの。幾ら、絵理子の幼馴染みだからっていっても、私には関係ないんだから」

 ムカつくーーーーーーーーーーーーーーーーー!

 これ以上、この場にいるのは限界だった。だから、寛子は何も言わずに、部屋を出て行った。

 

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