「仁絵先輩!」
さんざん探し回った後、仁絵は屋上にいた。手摺りに凭れていた仁絵は、その声に振り向く。
「………絵理ちゃん」
呼吸を整えながら近付くと、やっぱり仁絵は泣いていて。その事に、絵理子の胸は、つきりと痛む。
「………どうして、あんな事言うのかな」
確かに、絵理子に惹かれていたのは本当。だけども、里奈の事だって、ちゃんと想っていたのに。
「判りません」
でも、いつだって里奈は、相手の最善の道を選んでくれて、そのように行動する様な所があって。
「………あたしじゃ、ダメ、ですか?」
絵理子は仁絵の手をそっと両手で握りしめると、小さく問うた。その言葉に、仁絵はただ俯くのみで。
「あたしは、仁絵先輩のこと、大好きです」
そんな表情、絶対にさせない………とは、言い切れないけれども。でも、それでも。
仁絵は、そっと目を閉じた。
絵理子の手、声………触れる全てが、自分をこんなにも心地よくさせてくれる。それは、確かで。
「………いいのかなぁ」
里奈に振られたから、直ぐに絵理子、だなんて。でも、ずっとずっと、君のことが、好き、でした。
その呟きに、絵理子は小さく首を振った。そのまま、きゅっと仁絵の身体を抱き寄せる。
「————いいんですよ」
あたしのことも、ずっと好きでいてくれてた、って言ってましたよね。それだけで、充分ですから。
「………絵理ちゃん」
だらりと脇に落としていた両手をそっと持ち上げると、仁絵はその背にきゅっと腕を回した。
一瞬、絵理子は、びっくりしたように身を強張らせたが、ますます抱く腕を強くする。
* *
「あのさ………言い忘れてたんだけど」
翌日、困った表情をして生徒会室に来た仁絵に、里奈は腕組みをしながら告げた。
「恋人じゃなくなってもさ………、あたし、仁絵のコト、大事だからさ」
だから、困らないでよ、困らせる為に別れたんじゃないからさ。
「————里奈」
「気まずくなったりするの、ヤなんだ、仁絵とは」
もう、きっと触れることすらしないし、出来ないけれども。
今なら、判る。その方が、きっと自分達にとって最良の策なのだ。
「ばぁか」
「あ、あと、もう一言」
微笑む仁絵に、里奈はこそっと耳打ちした。
「絵理に浮気されたら、帰ってきちゃいなさい」
「————何言ってるんですか!!」
振り返ると、絵理子が毛を逆立てて立っていて。
「こそこそこそこそ怪しいコトして!全くもう!」
絵理子は里奈から仁絵をべりっと引き離すと、キっと里奈を睨み付けた。
「それに………あたしは、あなたじゃないですから、浮気なんてしません!」
「………はいはい」
呆れた様に苦笑する里奈に、絵理子はむっきーとなる。
「おこちゃまだねぇ」
くすくす笑いながら、おっかけっこをしている絵理子と里奈を、柔らかい目で微笑みながら、仁絵はそう呟いたのだった。
終