ハダカノココロ
5
「・・・・・・そう言えば、絵理ちゃんと2人で帰るって初めてじゃない?」
くるりと振り返ると、駅へと向かう帰り道、仁絵は告げた。その華麗なステップに、絵理子は思わず見惚れる。
「絵理ちゃん?」
「あ・・・・・・いえ・・・・・・そうですね。————うん、言われてみれば」
「いっつも、みんな一緒だったし」
絵理子と一緒だと、妙に緊張してしまう自分がいたのも、否めない。
「最近、1人増えましたしね」
多香子の事である。
それに、仁絵は頷いた。
「正直言うとさ、絵理ちゃんや寛ちゃんの話、里奈から聞いてたけど、仲良くなれるかなって、心配だったんだ」
「————どうしてですか?」
それに、仁絵は軽く笑うと、
「あたし、何気に人見知りするから。・・・・・・里奈には、いっつもそういういとこ、助けてもらってる」
ちくり。
絵理子の胸は痛んだ。だけど、その痛みは隠しておかなければならない。互いの為に。
「そうは見えませんけどね・・・・・・もっと人見知りするの、いるし」
寛子のことである。
それに気付いた仁絵は、ぶっと微笑った。
きっと今頃、寛子はくしゃみしてる事だろう。
「絵理ちゃん、それ言いすぎ」
「笑っておいて、それはないでしょう」
くすくす笑いながら、ゆっくりと歩く。————同じように幸せなのは、お互いに知らない。
「じゃ、あたし、JRだから」
駅までの短い道のり。改札の前で、定期入れを取り出しながら仁絵は振り向く。
「あ・・・・・・はい」
絵理子は頷くと、じっと仁絵を見つめる。
ほんとはもうちょっと一緒にいたいけど、それ以上望んだら罰があたる。この人は、自分の相手ではないのだ。
そんな絵理子に、仁絵は小さく呟いた。
「ありがとね」
「え?」
いきなりの仁絵の言葉に、絵理子は目を丸くする。
「遠回りしてくれたの、知ってるよ」
「・・・・・・あ゛」
絵理子は照れたように『えへへ』と微笑う。そして、上目遣いで告げた。
「バレてました?」
「バレてました」
『うむ』と頷くと、仁絵も笑った。
「じゃ、ほんと、ありがと。また、明日ね」
「————はい」
軽やかな足取りで人ごみへと消えてゆく仁絵の背を、いつまでもいつまでも絵理子は見つめていた。