Endless sorrow

27


「おや………」
 入ってきた人影は、ヒトエを俵のように抱いていた。そんな相手に、レイナは肩を竦める。
「りっちゃんがそっちのお守りだったんだ」
「ま………そういう事」
 適所適材って感じやね。
 そう呟くと、リツはエリの隣にヒトエをそっと横たえた。そして、柔らかく髪を撫でる。
「思ったより………ダメージは深いね」
「当たり前じゃん」
 レイナの言葉に、リツはあっさりと答えた。それから、レイナを見上げる。
「あたし達だって、そうだったでしょ?」
 その言葉に、レイナは苦笑いをする。
—————先代の勇者がいなくなったとき、黙り込んで言葉をしばらく失ってしまったミナ、半狂乱になってしまったナナ。
 彼女達に比べれば、自分達は狂わなかったほうだったけども。
 それでも、やっぱりどこか『空虚感』は胸を苛んで来た。
「どんなに辛くても、生きろなんて、あたしには言えない」
 でも、残されたものはこんなにも辛い思いをするんだよって、言いたいよ、勇者には。
 レイナは手を握り締めると、小さく呟いた。それに、リツも軽く顎を引いた。
「………行こう」
 眠らせておこう、彼女達を。
 振り返ったその瞬間、人影があることに、リツとレイナはびくっとする。だけども、それはミナだった。
「………どうしたの?」
 レイナの問い掛けには、ミナは応えない。そのまま、真っ直ぐにエリとヒトエが眠る寝台に近寄ると、瞳を切なげに細めた。
「ごめんね………」
 私は知っていた。彼女が何をしたいのか。—————だけども、それを止めることも出来なかった。同じ思いをすると、判っていたのに。
 くっと唇を噛むミナの前に、不意にゆうらりと影が現れる。それに、ミナは小首を傾げた。
「あなたが自分を責めることはありません」
 私も止められませんでした。—————彼女が悲しむと判っていて。
「………あなたは?」
 それに、リナは軽く笑んだ。ヒトエに視線を向けながら応える。
「彼女の守護の者です………どうか、御内密に」
 瞳の中に同じ色を読み取ったミナは、小さく頷いた。それに、リナは微笑を返すと、すぅっと消えてゆく。
「おーい、ミナー」
「戻っておいでー」
 と、良く、遠くに言ってしまう仲間に声をかけていたリツとレイナは、不意に動き出した彼女にぴくっと身を強張らせる。
「………行きましょうか」
 ナナが待ってるわ。これからのことについて考えたいって。
 いつもと変わらないマイペースのミナに—————もうすっかり慣れたもんだ—————リツとレイナは頷くと、部屋の扉に近付く。
 だけども、扉を閉める瞬間、3人は振り返った。そして、同じ事を思う。
—————願わくば………。彼女達に、今だけでもいいから安らかな眠りを与えてください。
 誰に願うでもなく、心から、そう思うのだった………。