扉の前に辿り着くと、ヒロは静かな面持ちでそれを見つめた。そして、小さく息を吐く。
この場所は、彼女を失った場所。また、同じ想いをするのかもしれない。
ヒロは自分の決心を確かめるように、瞳をそっと閉じた。—————それでも、変わらなかった。
きゅっと手を握り締めると、ヒロは無理やりに笑顔を作った。そして、自分を窺うように見ているエリ、ヒトエ、そして、ミナとリツに振り返る。
「………覚悟は出来た?」
リツが『ふふん』という感じで微笑んだ。その隣で、ヒロを値踏みするようにミナはすぅっと目を細めていて。
二人には、ヒロは小さく頷く。それから、視線をエリとヒトエに向けた。
「ヒロちゃん………」
小さくその名を呟くヒトエに歩み寄ると、ヒロはエリにちらりと視線を向ける。
「ん?」
意味ありげな—————そう、どこか悪戯っぽい—————視線で。
「………おこんないでね」
そう呟くと、ヒロはヒトエにきゅっと抱き付いた。
「………!!」
「ええ!」
驚いたのは、抱きつかれたヒトエでもあるし、それを見ていたエリでもあって。だって、ヒロは今までこういう積極的に感情を表すことを、あまりしなかったから。
「ヒロ………ちゃん?」
ヒトエの囁きは、ヒロの呟きで遮られる。
「エリちゃんを、止められるのは、ヒトエちゃんだけ、だからね」
だから、お願い。助けてあげてね、支えて、あげてね。
「え?」
ヒロの意味不明な言葉に、ヒトエは思わず声を上げた。だけども、そのときには、ヒロはもう離れていて。
「うわぁ!」
次に抱きつかれたエリは、思わず声をあげる。だけども、それにかまわず、ヒロはエリを抱きしめ続けた。
「………ごめんね」
もしかすると、君が一番、辛い想いをするのかもしれないね。
「………え?」
「あたしは、エリちゃんのこと、大好きだったよ」
最後に、きゅっと力を込めてエリを抱きしめると、ヒロは勢い良くその身体を離した。
「—————ヒロ、ちゃん」
一体、何を考えてるの?
そう問い詰めようとするのを遮るように、ヒロは、扉を勢い良く開いたのだった。
「りっちゃん………」
目の前をゆっくりと歩んでゆく、勇者の姿を歩きながら、ミナは囁く。
「ん?」
なんですか、一体?
視線で問い返すリツに、ミナは小さく息をついた。
「………勇者というのは、どこか、似てしまうものなのかしらね」
容姿や性格とかじゃなく、『本質』というものが。
「………はぁ?」
訳がわからん、と首を捻るリツに、ミナはただ、首を横に振った。
—————そう、この時点で、全てを知っていたのは、ヒロとミナ。二人だけ、だったのかもしれない。