はらはらと涙を流し続ける少女を見つめながら、心に浮かぶのは『罪悪感』という想いで。
引き込んではいけないのに、自分の同じ道に。—————自分の想いを貫き通したあげく、『裏切り』という道に。
じくりと痛む胸に、我知らず右手を当てながら、少女は瞳を閉じた。
『何で!何でよ!』
心臓を貫かれた自分を抱きかかえ、彼女は泣き叫んだ。
—————判っていたのだ、彼女を悲しませる事なんて。だけども………。
『ダメだよ………やだよ………死んじゃ………ヤだ』
ゆさゆさと揺さぶられるのも、もう、どうでも良くなって。
だけども、伝えなければならない言葉があった。—————動かない体を懸命に動かして、血の付いた指先で、彼女の頬に触れる。
『………』
目が霞んで殆ど見えない。だけども、『彼女』の気配は判るから。
口を開いた途端、血が溢れた。気管にそれがはいり、言葉が紡げない。
『………いいから、喋らないで!』
今、街に戻って医者に!
ふわっと浮く感覚に、抱き上げられたのだと判る。でも、もう『判る』だけで。
徐々に失われていく感覚に、自分がもう『死ぬ』のだと思った。—————望んでいた『死』に。
ただ一つ悔やまれるのは。想いを伝えられなかった事。
この場所に、この剣の持ち主がいて、そして、彼女達もこの場所に来て。
これは偶然か?それとも宿命か?
—————何度も何度も、思った言葉が、死んですら、尚、自分を縛り付ける。
少女は口元だけで、嗤った。—————自分自身を蔑むかのように。
たった一つ判っていることは。
宿命とかは、もうどうでもいい。ただ、このチャンスを逃すわけにはいかない。だから、自分はこうして、再び、形取ることを許されたのだ。そう思う。
—————でも、誰に?
「あなたの好きなようにしなさい」
少女は柔らかく告げた。
結末は、見えている。—————きっと、彼女は自分とは、少し違った道を歩むのだろうという。
「私は………行かなければならない所があるの」
あの場所へ。
「ひとつだけ、聴かせてください」
視線を戻すと、少しだけ目に力を取り戻したヒロが問いかける。
「………答えられるモノならば」
「………何故?」
その道を、選んだのですか?
その問いかけに、少女はふわりと微笑む。そして、踊るように、振り返った。
「判らない?」
あなたにだけは、判ると思うんだけれども。
「………逆らってみたくなったのよ」
あえて、『何に』とは伝えない。だけども、ヒロはじっと少女を見つめると、小さく笑んだ。
「良く、判ります」
切ないぐらいに。
縛られた『それ』から逃れるのは、きっと彼女にはその方法しかなかったのだろう。でも、自分は違う。
「—————じゃ」
「ありがとう、ございました」
もう二度と、重なり合うことはないだろう2人は、出会ったときと同じように、さらりと別れたのだった。