Endless sorrow

12



 その夜。
「あら………」
 真夜中、いつもは早寝のレイナの部屋の明かりが付いているのを不思議に思ったミナは、扉をノックする。
「………はい」
 いつもより覇気のない感じのレイナの声で返事があったので、何のためらいもなく扉を開けたのだが………。
「あらら」
 流石のミナも、その光景に思わず笑みを漏らす。
「ミナ〜〜」
 笑ってないで、なんとかしてよぉ〜〜〜〜。
 どこかふさふさの毛を持つ犬を思わす、へにゃっとした眉で、レイナは微笑う仲間に訴えた。
「………ごめんごめん」
 それでも、やっぱり口元は緩んでしまって。
 テーブルの上には、ピッチャーが転がっていて、グラスが二つ。そして、あろうことか、酒を酌み交わしていた相手は、酔いつぶれて、ベッドで眠ってしまったと。
—————レイナを抱き枕にして。
 ベッドに横たわりながら、レイナはミナに説明し始める。
「いきなりピッチャー抱えて来てさー、おごりだからって強引に飲ませるし」
 それでも3分の2は、彼女が飲んでしまったらしい。
「普段だったら、そんなに飲めないくせに………」
 ミナは、くぅくぅと寝息を立てているナナの前髪を、さらりとかきあげた。それには、『うーー』という不満げな声が漏れ聞こえて。
「うん………だから、びっくりしてさ」
 ヤなことあったのかな、って思って。
 起こさないように小さく呟くと、首をそっと動かしてナナに視線を向ける。しかし、しっかりと首筋に抱き付いたナナに阻まれ、それはうまくできなかったけれども。
「………この場所にいること自体、そうでしょうけどね」
 ミナの言葉に、レイナは視線をちょっと上げた。—————何を言いたいのか、判るから。
「でも、選んだのはナナさん自身だし」
「だけど『逃げたい』って思ってしまっても、仕方ないことでしょう?」
「………………」
 黙りこんでしまったレイナに視線を向けながら、ミナは思う。
 だから、レイナのところに来たのだ。自分だったら、何もかもを知っているから余計辛くなるし、リツだったら、どこか引け目を感じてしまうだろうから。
 この少し『ぽやん』とした雰囲気を持つ、一番年若いレイナだったら、きっと何も言わず、しかし、意図を悟ることも出来ず、こうした姿を見せられると、判断したから。
 それに、レイナはどこか、人を癒す空気を持っていて。きつそうに見える外見とは裏腹に、中身はどこか『のほほん』としていて。
「ま………手を出そうなんて考えないことね」
「とんでもない!」
 腕の中で眠る剣士を、『尊敬』という言葉で表現できる想いを持つ魔法剣士は、ふるふると首を振る。
「おや、意外」
 目を見開くミナに、レイナはむぅっと頬を膨らませる。
「………だって、あたし、まだまだだから」
 何も見合ってない。自信がない。だけど………せめて。
「ナナさんの眠りを護ることぐらいは、出来るよ」
 今はそれで、いい。それを求めて、ここに来てくれたはずなのだから。
 自分の役割をちゃんと心得てるレイナに、ミナは軽く笑む。
「—————じゃ、電気ぐらいは消して上げるわね」
「ありがと」
 ミナは二人にブランケットをそっとかけると、明かりのスイッチをそっと切り、レイナの部屋を去って行った。