Endless sorrow


「いや………でも、だって………」
 おろおろと狼狽えるエリに、ヒトエは逆に冷静さを取り戻した。
「—————詳しくお願いできますか?」
 それに、もうひとつ。
「先代の勇者も、生きてるんですか?」
 ヒトエの言葉に、エリもこくこくと頷く。
 『ふむ』と頷くと、ナナはゆったりと背もたれへと凭れた。
「………後者の質問には『NO』かな」
 その証拠は、あなた達が見てるはずだから。
「………え?」
 どういうことですか?
 ショックから立ち直ったのか、ずいっと身を乗り出すエリを、ヒトエはたしぃと叩く。
「………痛い」
「いーから、エリは黙ってなさい」
 そう告げて、視線を促す様にナナに向ける。
 どこか遠い瞳をすると、ナナは答えた。
「彼女が持っていた剣。あれは確かに先代も持っていた『剣』だから」
 あれは、きっと闘いの後、元の場所へと戻り—————そして、彼女の手に辿り着いた。
「あの剣は、『勇者』にしか反応しない。………だから、勇者が2人いるなんてこと、あり得ない」
 結論。『先代勇者は、死んでいる』。
「あなた達は、見ているはず。あの剣が、彼女にしか扱えない、ということを」
 その言葉には、エリとヒトエはこっくりと頷いた。
「だったら………どうして、あなた達は?」
 生きて、いるのですか?
 それには、ミナが答える。
「………神の、恩恵かしらね」
 私達にも、正直、良く判らないのだけれども。
 小さく首を傾げ、そう答える高位魔術師の言葉を、リツが続ける。
「死なないのに気付いたのは、先代が死んで10年ぐらい経ってからかな?」
 死なないって言うか………年を取らないってこと。
「あたし達は、200年近く、生きてる」
 君達と逢った場所に落ち着いたのは、100年ほど前からだけど。
「………ほぇ〜〜〜〜」
 感心した様にぼぉっとしてるエリは、ふと、思いついた事を口にする。
「大きな怪我をしても、死なないんですか?」
「………そう」
 レイナが小さく頷く。
 例えば腕がちぎれようと、破壊されようとも、再生してくるんだ。
「だから、死なない。………というよりも、死ねない」
 最後の締めは、やはりナナで。どこか皮肉げに微笑みながら続ける。
「—————時々、思うよ。これは『恩恵』なんかじゃなくって『呪い』じゃないかって」
 『彼女』をむざむざと死なせてしまった、という。
 ふわふわと髪を撫でられる。振り向かなくても判る。この手は、ミナだ。
 ナナはそっと瞳を閉じた。だけども、直ぐに瞳を開き、目の前に腰掛ける2人を見つめる。
「………でもね」
 或る意味、運命なのかもしれない。
「………何が、ですか?」
 ヒトエは問いかけた。その目を真っ直ぐに見返しながら、ナナは答える。
「—————あなた達と出会えたのが」
 昔の勇者の仲間達だった私達と、今の勇者の仲間だったあなた達とが。
「………………」
 黙り込むエリとヒトエに、ナナはにっこりと笑いかける。
「だからさ………」
 見捨ててはおけなかったんだ。あなた達のこと。
 それだけのために、私達は、この場所へ来た。—————何の迷いもなく。
 全ての手の内を見せるように、ナナはひらりと両手をエリとヒトエに向けた。
「助けがいらなかったら、それはそれでいい。でも、必要だったみたいだね」
 さぁ、これで話は終わりだよ?他には?
 何とも言えない表情で、エリとヒトエは顔を見合わせたのだった。