Endless sorrow


「—————ヒロちゃん!」
 何とか上半身を起こし、ヒトエが叫ぶ。だけども、不意に目が覆われた。
「リナ!」
「見ちゃ、ダメ」
 あんな悲しい姿を、君に見せたく、ない。
 実体化したリナが、ヒトエの視線を塞いだのだった。
「でも!」
 ヒロちゃん、助けないと!
 その叫びは、誰にも届かない。
 タカの手刀が、ヒロの喉元をまさに突き破らんとするとき、大きな音を立てて、扉が開いた。
「うっ!」
 タカの身体は、『何か』に跳ね飛ばされた。不意打ちをくらって、壁に思い切り叩き付けられる。
「………ぐっ!」
 ずるずると身体が崩れ落ちる。そのまま、恨みがましく視線をあげた。
 扉から入ってきた影は4つ。
「………遅かったか」
 先頭を切って飛び込んできた影が、目の前の光景に思わず口走る。
「—————大丈夫?」
「生きてるー?」
 残りの2つが、それぞれエリとヒトエの元へと駆け寄って来た。
「………レイナ、さん?」
 上体を支えられ、覗き込む相手は、以前、闘った『魔法剣士』のレイナであって。
「………取りあえず、辛いだろうけど立って」
 肩を支えられ、エリは立ち上がる。そして、ヒトエの方を見た。
「………傷は深いぞ、しっかりしろ」
「それを言うなら、傷は浅いぞ、でしょーが」
 軽口に、思わず本気で突っ込む。それには『かかか』と相手は笑って。
「………それだけ返せるんだったら、大丈夫だね、うんうん」
「—————リツ、さん」
 一体、どうして?
「言ったでしょ?」
 何か、あったときは力になるって。
「ほら、しゃん、として」
「………ヒロ、ちゃんを」
 あたし達なんかより、彼女を!
 その言葉に、リツは自信ありげに頷く。
「まーかせなさいって」
 お姉さん達に。
 取りあえず、あんた達を連れ出さないとね。
 そう呟くと、リツは、ヒトエをひょいっと肩に抱え上げた。そのまま、同じようにエリを小脇に抱えたレイナと視線を交わす。
「ほーら、逃げるぞーーー」
「ほーい」
 ぴったりと合った呼吸で、2人は扉から飛び出していったのだった。


「酷いモンだ」
 ぴくりとも動かないヒロを抱きかかえると、ナナはぽつりと呟いた。
 手足の骨は粉砕されていて、腹部の傷もある。全部、致命傷には至らないけれども、この怪我はきっと『死んだ方がましだ』と思わせるそれらであって。
 でも、きっと、心の傷の方が酷い。
 ヒロを横抱きに抱えると、ナナは魔法でタカを押さえつけているミナに視線を向ける。
 そろそろ限界が近いミナは、それに頷く。
 こうしているだけでも、彼女との力量の差が判る。封印されていたときでも、負けていたのに。
「おのれ………」
 じりじりと押し返されてくる力。それを跳ねのけるには、多大な力が必要であって。
 ミナは力を手のひらに集中させる。そして、思い切りそこから吐き出した。そのまま、目くらましの魔法を繰り出して。
「行くよ!」
「—————オーライ」
「待て!」
 呪縛が解放されたタカは、捕らえるための魔法を繰り出した。だけども、それは一瞬、遅い。
 幻影を切り裂いたタカの手に残っているモノは、何もなかった。