Endless sorrow


「————誰もいない」
 結界を破り、最終目的の敵地である城に乗り込んだ4人は、周囲を見回し、思わず呟く。
 敵の本拠地に乗り込んで来たのだ。わらわらと敵が現れるだろうと覚悟してきたのに。
「おかしい………」
 こつこつと誰もいないエントランスに足音が響く。ヒロは数メートル先に歩を進め、くるりと3人を振り返った。
「————何で、誰もいない?」
 苛立ちがヒロを襲う。険しい視線で、そう呟いた。
「………考えられるのは、ひとつだよね」
 ヒトエの言葉に、エリも頷く。
「————罠」
 ぽつりと呟き、ヒロを見つめた。
「………少しは、相手として認められたってことかな」
 皮肉げに、ヒロは微笑む。腕組みをしながら、どこか楽しそうに。
「—————どうしましょうか?」
 答えは判っているのに、ヒロはあえて問う。それに、エリとヒトエは同じように、皮肉げに微笑んで。
「もちろん」
「行くに決まってるじゃん!」
 その言葉に、ヒロは小さく頷いた。そして、傍らに佇む愛しい相手に視線を向ける。
「………タカは?」
『—————え?』
 どこか、ぼんやりとした表情をしていたタカは、ヒロの温もりにハッと我に返った。
『あ………ごめん』
 きいて、なかった。
 タカの視線に、ヒロは穏やかに微笑んだ。
「ここで、待っててもいいんだよ?」
 イヤだと思う人間を、無理に連れて行く事は出来ない。
 ヒロの言葉に、タカはふるふると首を振った。だけども、その手を不安げに握りしめる。
 それを愛しげに握り返しながら、ヒロは温もりを確かめる様に目を閉じた。
—————この人が側にいてくれるならば、何だって出来る。
 ヒロは強く思う。
 そして、ゆっくりと目を開いた。
「歓迎されてるようだから、お言葉に甘えますか」
 ヒトエが、そう言いながら、ヒロに右手を掲げる。その手には、ハイタッチで返して。同じようにするエリにも。
「………では、行きましょう」
 すぅっと大きく息を吸うと、ヒロは真っ直ぐに前を見据えた。


—————どうしてだろう?
 歩みを進めながら、タカは段々不安になってくる。
 知っている………知っているのだ、この場所を。
 そこを右に曲がれば、大広間へと続く扉がある。ああ、その道は間違っている。
 前を行く3人の背を目で追いながら、そんなことを思う自分が、自分で恐ろしくなってきた。
 一体、自分は何者なのだ?
 初めて、自分の記憶が無いことが恐ろしいと、タカは感じていた。