「………あら」
部屋のソファに身を埋めていたミナは、不意に現れた影に視線を上げた。
「ここには、来てくれないと思ってたわ」
「そんなわけ、ないじゃない」
微苦笑しながら、ナミエは腕組みをした。その返答に、ミナはただ肩を竦める。
「………期待通りに事は進んだ?」
ミナの言葉に、ナミエは更に苦みを深くした笑みを浮かべた。そのまま、ミナの隣にどっかりと腰掛ける。
「何でもお見通しって訳ね?」
あたしが、ここに現れた理由すらも。
「そう言うわけじゃないけども」
ここに戻ってきた時に、何となく、そんな気はしてたから。
視線をどこか遠くに向けながら、ミナは小さく呟いた。
「………何を?」
「これは、もう定められた事、なのだってこと」
あたし達が、あなたと出会った事も。あなたに置いていかれてしまうことも。—————そして、彼女達に出逢うことも。
「だから、待っていれば、あなたはいずれ現れるって」
ミナの言葉に、ナミエはひゅうと唇を吹いた。そして、がしがしと髪をかきあげる。
「流石だね」
あたしですら、ミナには隠し事出来ないや。
「変なの」
クスクス笑いながら、ミナは答える。ナミエも同じように笑って。
「そういやさ………」
あの時、何で、りっちゃんの味方したの?
ひとしきり笑った後、不意に話が本題に入った。笑うのを止めて、視線をナミエに向けると、痛いぐらい真剣な表情の彼女がいて。
「………ばれました?」
おどけたように問いかけるミナに、ナミエはさらっと答えた。
「ばれないわけないじゃない」
あたしの術を破れるのは、ミナしかいないし。りっちゃんだけの力で、それが出来るなんて信じられないし。
その言葉に、ミナは背をソファに戻した。そんな彼女に、ナミエは更に問いかける。
「そもそも」
ナナの一番の傍にいるのが、どうしてりっちゃんなわけ?
「—————どうして?」
りっちゃんじゃ、ダメなの?
見上げる瞳の奥には、深い深い闇があった。その闇が宿っていることすら、他の3人は気付いてないのだろう。
だけども、自分には判る。同じ闇を抱えていた自分には。
ナミエはくっと手を握り締めた。そのまま、深く息をつく。
「ミナ、だと………思ってた」
だから、あたしは……ある意味、安心していたのに。
そう言って俯くナミエの顔を、ミナは下から覗き込む。それに視線を合わせたナミエに、
「ふざけないでちょうだい」
穏やかに微笑みながら、ミナはそう告げた。