「………………」
 苦しげに眠っているナナを、ナミエはただただ見つめる。
「—————ナナ」
 その視線は、どこか愛しげで、苦しげで。その表情を見ているだけで、判ってしまう事もある。
 ダメだ………判ってなんかやらない。
 リツは足をじたじたとさせると、
「ナナさんに近付くな!」
 そう、怒鳴ろうとしたが、喉が塞がれた様で、声が思ったようにでない。
「—————起きて」
 顔を口付けするぐらい近付くと、ナミエはそっと囁いた。
「……………ナナ」
 その声に、導かれた様に、ナナはそっと目を開いた。
—————これは、夢?
 ぼやけた視界に、『彼女』が微笑んでいて。それが、余りにも、リアルだったから。
「………ナミ、エ?」
「—————久し振りね」
 その答えに、ナナは本当に覚醒する。こんな受け答え、夢なんかじゃない。
 ナナはがばっと起きあがった。そして、腕組みをしながら自分を見下ろしている彼女を、呆然と見上げる。
「………ナミエ」
 これは、夢………?
「夢、なんかじゃないよ」
 あたしは、今、ナナの目の前にいる。
 心が、震えた。同時に、身体も震えが来る。押さえようとしても、押さえきれない、それ。
「嘘………」
「嘘なんかじゃ、ないよ」
 あたしだよ、ナナ。
 そう囁くと、ナミエはそっとナナの頬に指を伸ばした。温もりが、頬に伝わる。
「………泣かないでよ」
「—————泣いてなんか、ない!」
 ぼろぼろと溢れる涙を拭おうともせずに、ナナは怒鳴った。その頬に、ナミエは指を伸ばす。
「泣いてるじゃない」
 そう囁くと、頬に唇を当てて、それを拭う。
 触れられたら………どうしようもなくなった。全身の血が、心臓に集まっているかのように、鼓動が早い。
「バカ………」
 泣かせてるのは、誰だか判らないの?
「うん………」
 知ってる。
 頷きながら、ナミエは軽く笑む。そして、ナナの頭をきゅっと抱き寄せた。
「………………」
 ナナは、その腰をきゅっと引き寄せ、抱きしめた。そして、安堵したように息をつく。
「—————ナミエ」
 もう二度と、呼ばないと決めた名前。封印がほどけた様に、すんなりと口にでる。
「うん………」
 そう呼ばれた相手は、どこか悲しげに頷いたのだけれども。その表情は、ナナには見えなかった。


 —————畜生。
 あんな光景見せられたら、勝ち目ないって判るんじゃんか!
 ぼんやりとリツは思う。
 判って、いたのだ。彼女が、囚われている事に。だけども、それでも良かったんだ。
「それでも………あたしは………」
 ナナさんが、欲しかったんだ。
 身体を動かせないまま、リツはぼろぼろと泣いていた。ただ、泣くしかなかった。