「———ふっ!」
びくりと背を仰け反らせ、そのまま、とすりとベッドへと身を沈める。荒く呼吸を繰り返すナナの髪に、リツは柔らかく口付けた。
「ナナ………さん」
目蓋に、こめかみに、髪の生え際に、次々と唇を当てると、最後にその甘い唇を塞いだ。
奪う為のキスじゃなく、与え合うようなキス。
「—————好き」
答えなんて求めてない。だけども、言いたいのだ。
リツの言葉に、ナナはいつものように答えず、リツの髪を柔らかく撫でた。
『そーゆー事はする気はない』とか言いながら、結局、求めるのは自分の方。リツは、きっと何も悪くはない。
自己嫌悪に、吐きたくなる。—————自分自身に、矛盾を感じていて。
ナナの溜息を聞き付けたリツは、
「ナナ、さん」
何度も何度も撫でさするその指先を奪い取り、そっと唇を当てる。
全てが、好きだと感じる。全身で。だけども、彼女の心は決して自分のモノにはならない。
判っている。判っているのだ。—————それでも、求めずにはいられない。
「………シャワー、浴びる?」
あたしはこのまま眠るけど。
リツの言葉に、ナナは小さく頷き、ゆっくりと身を起こした。
「—————最低」
自分自身、そう思ってるのだから、きっと相手もそう思ってるだろう。
熱いシャワーを浴びながら、ナナは考える。
こんな事を思ってしまうのは、きっとこの場所のせい。『彼女』がいなくなった、この場所のせい。
ナナは自嘲気味に笑む。
「自分から、ここに来たくせに」
なのに、まだ、こんな事を思っている。思ってしまう。
—————考えるな!
引きずられてしまう。あのどうしようもなくやるせない気持ちに。だから、考えてはダメ!
だけども、引力に引かれる様に、ナナの心は墜ちてゆく。—————深い深い闇に。
最初は『いけ好かないヤツ』だとしか思わなかった彼女。何もかも見透かす様な瞳に、引き締まった口元。すぅっと通った鼻筋。皮肉げな笑みなんか浮かべたら、それはそれは様になっていて。
だけども、ひとたび、剣技となれば、誰にも………腕に覚えにあった自分さえも、足下に及ばなかった。
しかし、一緒に旅をしている内に判っていった。—————ただ、彼女は寂しかったのだ。それを隠すことに慣れてしまって、あんな風にすることしかできなかったのだ、と。
そう気付いたら、もうダメだった。惹かれていく心を抑える術を持たなかった。
初めてキスをしたときの、あの照れた表情。あんまりにも可愛すぎて、思わず見とれてしまったっけ。
—————絶対に、手放すまいと誓ったのに。
「………あ………ああ」
意図が切れた人形の様に、力が抜けたナナは冷たい床にぺたりとしゃがみ込む。そんなナナの心を、優しく綺麗な想い出は、痛めつけていって。優しく綺麗だからこそ、残酷に。
「………エ。ナミ………エ」
自分の裸の肩を抱きしめながら、ナナはただただ譫言のように、その名を呼び続ける。