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10

 

「・・・・・・あれ?」

 仁絵とデパートの店内を歩いていた寛子は、ふと足を止める。

「どしたの?」

 仁絵が顔を覗き込んでくる。それに、寛子は訝しげに眉を潜めた。

「・・・・・・今、見知った顔が」

 踵を返すと、寛子はずんずんと歩き始める。

「ちょ・・・・・・ちょっと、寛ちゃん!」

 コンパスの違う仁絵が慌てて追いかける。しかし、不意に止まった寛子の背中に、おもいっきり顔をぶつけた。

「った〜〜〜、急に歩き出すわ止まるわ、どっちかにしてよ!!」

 ぶつぶつ文句を言いながら、寛子の顔を覗き込む。

————え?

 先程までの華やいだ表情と————そりゃちょっとは元気がなかったけど————対照的な冷たい表情。何があったのだろうと、寛子の視線を追う。

 そこには、絵理子と多香子が楽しそうに談笑していた。ちょうど、昼食時だから、混んでいるファミレスの店内。外の視線なんて気にならないくらい、2人は楽しそうだった。

「————寛ちゃん」

「・・・・・・・・・・・・いこ」

 寛子は、静かに仁絵を促すと、足早にそこを去った。しかし、不意に視界が霞む。

「・・・・・・くっ」

「寛ちゃん・・・・・・」

 立ち止まった寛子の手を仁絵は優しく引く。迷子になった子供のように泣きながら、寛子は仁絵に導かれるまま歩いた。

「・・・・・・うっ」

 シャツで涙を拭うけれど、後から後から溢れて困った。止めようと思ってるのに、止まらなかった。

 悔しかった。自分よりも絵理子を優先されたのが。しかも、絵理子のほうが約束は後である。

そして、それを隠されたのが、悔しい。

「・・・・・・大丈夫?」

 連れてこられたのは、トイレの前の休憩所。差し出されたティッシュを受け取り、鼻をかむ。

「ごめん・・・・・・・・・・・・ありがと」

「ううん」

 仁絵は目の前の自販機から、紙コップを取ると寛子に差し出した。

「はい、水分補給したほうがいいよ」

「————ありがと」

 そう告げると、寛子はそれを黙って口に含んだ。仁絵も隣で何も言わない。

「なんか・・・・・・悔しい」

 寛子の呟きに、仁絵は困った表情をした。

「多香ちゃんがあたしの約束破ったのも、その相手が絵理ちゃんだったのも、言ってくれなかったのも、そして・・・・・・それにショック受けてる自分も・・・・・・悔しいよ」

「何か、あったんだよ」

 仁絵の言葉に、寛子は泣きはらした目を細め、困ったように呟いた。

「それは判るけど・・・・・・・・・・・・でも、さ」

「————喧嘩はダメだよ?」

 仁絵の言葉に、寛子は諦めた様に二度頷いた。

 

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