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9

 

「じゃあ、寛ちゃん、行って来るね」

「行ってらっしゃい」

 とうとう日曜日。先に出る多香子は、申し訳なさそうに寛子に告げた。それに、同じように準備をしていた寛子は微苦笑しながら返す。

「————寛ちゃん?」

「ん?」

 前髪を直す手を止め、寛子は振り向く。それに多香子は口を開きかけたが、直ぐに首を振る。

「……なんでもない。行ってくるね」

「うん」

 変な多香ちゃん。

 ひょいと肩を竦めると、寛子はムースの缶を振って、中味を出したのだった。

 

「何がいいかなぁ〜〜〜」

 あちこち覗きながら、絵理子と多香子は首を傾げる。一緒に、店内を回りながら多香子は、

「ね、新垣先輩の欲しい物は訊いたの?」

「————うん、仁絵ちゃんはCD収納のラック欲しいって言ってたから・・・・・・無印かどこかに行こうって思ってるんだけど、問題は・・・・・・・・・・・・」

「寛ちゃん、か」

 絵理子の答えに、多香子も納得したように頷いた。

 一緒に暮らしてみて思うことは、寛子は物的欲求がとても少ないということだ。一緒に雑誌を見ていても、『あ、これいいなぁ』とか『欲しいなぁ』とか言うのを聞いた事がない。

————絵理子や多香子がそういうのは良くあるのだが。

「ちっちゃい頃から、あんまり、欲しがらないんだよね、プレゼント。だから、毎年悩んじゃってさー」

「そうなんだ・・・・・・・・・・・・」

 絵理子の説明に多香子は溜息をつく。

「でも、まぁ・・・・・・・・・・・・決めるしか、ないよね」

 来週も絵理子と買い物だけは避けたい。来週こそは、自分から寛子をデートに誘うのだ。それが、寛子に対する多香子の罪滅ぼしだから。

 多香子は心で握りこぶしを作る。

「う〜〜ん」

「————これ、は?」

 ふと足を止めた眼鏡屋で、多香子はケースを覗き込む。

「どれ?」

「これ」

 何も模様がなくってシンプルだけど、寛子に似合いそうな紺色の眼鏡ケース。

『ガキっぽくてさ、やなんだよね』

 一度、キャラクター柄のケースを見咎めた時、口を尖らせながら寛子はぶつぶつ言っていた。確かまだ、新しいのは持ってないはずだった。

「う〜〜ん」

 渋ってる絵理子に、多香子が強く勧める。

「ね、これがいいよ。あたしがさ、寛ちゃんの買うから、絵理が新垣先輩の買えば?それでいいじゃん」

「・・・・・・そう?ならいいけど」

 渋っていたのは値段を考えていたかららしい。————絵理子らしいっていえば、絵理子らしいが。

「じゃあ、買ってくる、待ってて」

「はーい」

 ほんと、仲良くなったんだなぁ。

 浮き足立ってる多香子の後姿を見ながら、絵理子は思う。

 やっぱり、大好きな人達には仲良くなって欲しいもんね、うん。

————その『仲良くなった理由』というものを知ったら、絵理子はきっとぶっ倒れるだろうが、それを知るのはまだまだ先なのであった。

 

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