CHANGE

〜BATTLE 4-3〜


『ヒロ………』
 帰ってくるなり、控え室の隅に蹲って顔を膝に埋めているヒロに、タカはそっと手をかけた。その声に、ヒロは小さく呟く。
「ちょっとさ………放っておいてくれるかな」
 ショックだった、自分が負けたことに。しかも、完膚無きほどに。--------それを、今、ここにいる相手に見られたのが、何よりも痛い。
 何だかんだ言って、まだまだ見栄を張りたいお年頃な勇者なのであった。
『………………ヒロぉ』
 情けない声が届いた。それに顔を上げる気力すらない。
「何を落ち込んでるのかな?」
 不意に、柔らかい声が耳に届いた。目の前に立つ相手の気配を感じて、ヒロはそっと顔をあげる。そこにはご想像通り、先程の対戦相手の剣士が立っていた。
「………あなたは」
 驚きの表情をするヒロに、ひょいとしゃがみ込むと、剣士はほやぁと微笑った。微笑うとものすごく印象が変わる人だ。
「もしかして、負けたから?」
「………………」
 無言で俯くヒロに、剣士はわしゃわしゃとその髪をくしゃくしゃにした。
「ちょ………ちょっと、何するんですか!!」
 『がぅ!』と吠えたヒロに、剣士は立ち上がると『ふふん』とふんぞり返った。
「もしかして、勝つ気でいたの?」
「--------………悪いですか?」
 ヒロの言葉に、剣士は軽く微笑んだ。そして、ふんぞり返ったままで答える。
「悪いけど、今の君のレベルでは、私には勝てないよ」
 知っているそれぐらい。だからといって、それをわざわざ言いに来たのか?
 その視線の強さに、剣士は内心微笑む。
 この娘は、もっともっと強くなる。きっと、今度逢ったときには、自分は負けてしまうだろう。それほどの資質を、その身に秘めている事を、本人は知らない。
「ま、悔しかったら、もっと腕を磨くんだね」
「それまで、あなたはここにいますか?」
 ヒロはその言葉に、鋭く叫んだ。剣士は、ヒロの言葉に小さく頷く。
「いるよ………私は、ここに雇われてる剣士だし。当分は、ここで稼ぐつもりだからね」
「だったら、約束です」
 もう一回、勝負してください。
 その言葉に、剣士は頷く。そして、右手を差し出した。
「私も、それを言いに来たんだ。今度、いつ来るか判らないけど………君が自分の腕に自信がもてたら、おいで」
 何度だって、相手してあげる。
 聴きようによっては、ヒロの腕を認めていない言葉だが、実際はそうではないことを当人達は判っている。
「--------じゃあ、それまで」
 ヒロは差し出された右手をしっかりと掴むと、軽く頷いた。そして、ふと思いついたように問いかける。
「あ………名前、名前、まだ聴いてません」
 その言葉に、剣士はにっこりと微笑んだ。そして、答える。
「ナナだよ。あなたの名前は?」
「--------ヒロ、です」
 互いに名乗って、微笑みあったのだった。


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