「たーか」
こんなとこで寝てると風邪ひくよ、また。
3月とは言え、寒いものは寒いのだから。
「ん〜〜」
夜の自由時間。しかも、試験が終わり、かなり気持ち的に開放されたのだろう、多香子はベッドの上で丸くなっていた。
「ねむ〜〜い」
うだうだとしながら、ごろんと寝返りをうつ多香子を寛子は『仕方ないなぁ』という目で見つめる。だけども、その視線はあくまでも優しい。
「はいはい」
くすくすと笑いながら、寛子は多香子の身体の下から上掛けを懸命に引きずり出そうとする。多香子は、ちょっとだけ上体を浮かせると、それに協力した。
「—————寛子ぉ」
不意に腕を寛子の細い首筋に巻きつけてくる。その行為に、寛子は両腕を多香子の背に回し、抱き起こした。
「ん?」
腕の中に、きゅっと多香子を閉じ込めると、寛子は甘い口調で言葉を促す。それには、すりすりと首筋に擦り寄ってくるだけであって。
「もう………」
仕方ないなぁ。
多香子の髪に軽く口付けながら、寛子はベッドによじ登り、壁に凭れた。
「頑張ったもんね、多香」
「………うん」
寛子の腕の中、うっとりと目を細めながら言葉を返す。
気持ち、いいなぁ、と素直に思う。—————彼女の側は、こんなにも。
「ね………寛子」
寛子の指をいとおしそうに弄びながら、多香子は囁く。
「んー」
その温もりを十分に味わっていた寛子は、くぐもった声で答えた。
「今日は、一緒に寝てくれる?」
甘えるようなその声に、寛子は口元だけで微笑むと、
「………いいよ」
小さく頷いたのだった。
「ね、寛子」
横になった寛子の上にのしかかりながら、多香子はうきうきとした声でその名を呼ぶ。どうやら眠くなくなってしまったらしい。
「ん〜〜〜」
逆に眠くなってしまったのか、寛子はうざったそうに首を横に振った。
「もーー、おきてよー」
「—————多香、ワガママ」
寛子、眠い。
それでも、無理やり目をこじ開けると、多香子の視線を受け止めた。指を伸ばし、さらさらな髪をそっと撫でる。
「へっへー」
その行為に嬉しそうに多香子は、寛子の首筋に顔を埋める。
「はいはい」
くすぐったそうに微笑みながらも、寛子はその体を受け止めた。
「多香さ………」
「うん?」
「嬉しいんだ」
こういう、何気ない日々が。
自分の未来には、真っ暗で絶望しかないと思っていた。だけど、彼女と出会ってから、それが少しずつ消えていって。
抱きしめあい、触れ合って………やっと心から微笑むことが、出来るようになった。出来ることなら、もう二度と失いたくない感情。
「—————だから、さ」
側にいてくれなきゃ、ヤダからね。………寛子じゃなきゃ、ヤなんだからね。
—————どうして、そんな可愛いこと言ってくれるかなぁ。
多香子の不意打ちの言葉に、寛子はくたぁと身をベッドに投げ出した。しかし、気力で体を反転させると、多香子の顔を覗き込む。
「………寛子?」
「—————ばーか」
ほんと、おばかさんだね、君は。
そう囁きながら、頬に、目蓋に、鼻に、こめかみにキスを降らせる。
「放してくれって言ったって………放してなんかやらないよ」
だって、自分だって彼女じゃなきゃいやなのだから。—————他の人じゃ代わりになんてならない。
「………うん」
少しだけ照れたように視線を落としたけれども、直ぐに視線を絡めあって。
指先を絡めて、ゆっくりと顔を近づけて………吐息さえ絡めるような、キスを交わしたのだった。
—————この先、きっと待っているのは。今までと同じような『愛しき日々』。
終