99年7月22日(木)朝日新聞夕刊(12面、第2版)の記事より引用しました。

91歳 朝比奈現役


 指揮者の朝比奈隆が九日に九十一歳の誕生日を迎えた。世界最高齢の現役指揮者は十一日、大阪のザ・シンフォニーホールで、十八日には東京のサントリーホールでシューベルトの交響曲「未完成」と「ザ・グレート」を振り、高齢を感じさせない堂々の演奏を聴かせた。
 朝比奈指揮の大阪フィルハーモニー交響楽団が、一時間を超えるシューベルトの「ザ・グレート」を演奏し終えると、会場のあちこちから歓声が上がった。楽員が引き揚げたあとも、朝比奈は一人、ステージ上に呼び戻され、総立ちとなった聴衆の拍手にこたえた。
 終演後、朝比奈は「ザ・グレート」について、「シューベルトはおとなしい顔をしているけど、すごい曲を書いたね」とほほえんだ。
 元気の秘けつについて朝比奈は「学生時代、勉強ばかりせず、体を鍛えたのが良かった。私が通った学校(旧制東京高校)は中学・高校一貫の七年制で、この学校からは入学試験を受けずに東大や京大に進学できました。受験勉強に割くエネルギーをサッカー、陸上競技、登山、スキーなどに向けることができ、健康に恵まれました」と語る。
 「才能があって器用でも、早死にしたら、もったいない。共演したことのあるグレン・グールド(カナダのピアニスト。1932〜82)なんか、才能豊かな人だったけれど、夜寝られない、めしが食えないと悩んでいました。私はその点、何でも好き嫌いなく食べます。音楽も、おくてですから、年数をかけて技術を作ってきました。どんななだらかな坂でもいいから、絶えず上がっていこう、と生きてきたのが良かったのでしょう」
 今回の演奏会は、ザ・シンフォニーホールが企画し、八十六年から続けているシリーズ「朝比奈隆の軌跡」の一環。
 シリーズ九回目の今回は、このあと、九月二十九日にチャイコフスキーの「弦楽セレナード」と交響曲第六番「悲愴」、十一月十九日にブルックナーの交響曲第七番を取り上げる。
 「いずれも難しいプログラムですが、楽な仕事ばかりしていてはダメですよ。大変だけど、いい作品に挑んで、その音楽に励まされてきたからこそ、長生きしてきたのだと思っています」
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