「海の向こうから」


 
 
この空に歪みを作って 空気を揺らす大きな声
 
時折悲しく青白く泣いてみては その声はけたたましい限り
 
僕がその雷撃におびえるのは 生きている確信で
 
これが人間の弱さなのだと思ったりもする
 
雷雲に取り巻かれた小さなアルカディア
 
幾人もの人がそれを小さな世界だと信じる
 
でもそれは想像力の大きさで 心の広さだと僕は言う
 
突然の雷雨に僕の心は脅かされて ひどく痛んだりする
 
最近恋をしたかな などと笑っている自分がどこかにいたりして
 
一時の感情でもいいから 誰かを本当に好きになって
 
そして何処まで燃えるかわからないこの僕の感情を
 
その人にありったけの雷鳴と共に 泣き崩れても構わない
 
それでも僕はそれくらい誰かを今好きになって
 
そして冷たい雨の中でもいいから手を繋いで歩いてみたい
 
ねぇ君を好きになってもいいのかな 誰が裁こうとも
 
僕は煙草を吸ったりもするんだよ コーヒーに砂糖だってミルクだって入れない
 
オレンジ色の光が好きで オレンジ色の光が好きで
 
その中だったら甘くもすっぱくもなく二人で溶けて行けると思うんだ
 
僕の心を少しシェイクして まるで勢いばかりのソーダ水のその瞳で
 
二人キャンドルの光浴びて黒人の音楽でも聞きながら
 
この世界自分達だけのものにしてもいいのかな
 
ねぇ君が好きだよ それだけじゃ駄目なのかなぁ
 
リップスティックのこの先の先のメンソールの冷めたい感じ
 
それでもまだどこかで雷鳴が僕の心を脅かすんだよ
 
ねぇ君に会いたいよ 今だけでもいいから 今だから
 
今僕がたとえ人間として一番弱かったとしても
 
たとえ一時の感情で 僕が怯えていても 心が歪んでも
 
恋をする事に対して ただ君が一番近くに感じているだけでも
 
それでも少なからず君は僕の心を動かしたんだよ 触ったんだよ
 
どれくらい時間が経っただろうか 外は大分静かになって
 
もう光ったりはしない いつもの夜に光る街灯のオレンジ色だけ
 
サイレンが聞こえたよ この街ではよくある事だ
 
何処で誰が悲しんでいるのかも知らない そのサイレンの音に
 
大きく呼吸をして 大きく呼吸をして
 
この街でパイプラインの事故があったんだ 大爆発はこの街に歪みを
 
そしてその黒煙は立ち込める事この街を覆い
 
英語の先生の息子がそれで死んじゃったんだって
 
僕は孤独に夢中でそれに気付かなかったんだ
 
次の日に聞かされた僕は言葉を失って 
 
それが悲しいのか悲しくないのかもわからないほどだった
 
こんな僕は恋をするべきではないんだろうか 
 
それでも君が好きだから 君が好きだから 僕は孤独で居るのかもしれない
 
今から煙草を吸ってもいいかな 煙を出すんだよ 
 
とてもとても有害で 僕のハートは真っ黒さ
 
それには少しの炎が要るから 僕は火遊びだってする
 
こんな臆病者の不良少年を 傷付けてくれないか
 
保健室で寝ていると何処からか声がして それは半分眠りの中で
 
運動場からは静かにはしゃぐ たくさんの声が聞こえてくる
 
カーテンが静かな温かい風に揺らされてさ
 
僕はそのカーテンの隙間から少しだけ覗いた日差しの強さに目を細める
 
あれは確か夏ももう終わる頃だった あれは確かに静かだった
 
その季節を過ぎると空は段々黒くなり始めて 夕立がその街を襲う
 
確かあの頃は僕にも恋人が居て 楽しいはずの出来事がたくさんあったんだと思う
 
学校に忍び込んでプールの小さなエッジの上を歩いていたあの頃
 
裸のままその水色に飛びこんで 月明かりがきれいだったっけ
 
疲れたと思って友達と腰掛けてふかした煙草の味は時折口にする
 
その後何を思ってぶっ放したか 消火器の綺麗な花火
 
それでまるで疲れて家に帰って次の日の朝目が覚めると
 
新聞の片隅に僕の思い出の学び舎が大きく載っていた
 
誰かがぶっ放した消火器で 飼育小屋の動物たちは全部死んだんだって
 
昨日は少しも悲鳴なんて聞こえなかったのに
 
それでもたくさんの動物が死んだんだって
 
その罪はいつ償おうか きっと僕がこの綺麗な手首を切る時
 
でもそんな事はしない その弱さを君にぶつけて
 
僕は君とありったけのくちづけをするんだ
 
その時に培った悲しみがきっとどこか心の隅にこびりついていて
 
もう誰が僕の事を何万回愛していると言ったって駄目かもしれない
 
一つでも覚えておけば良かった 君が好きそうな花言葉
 
思い出の中にだけ育む僕の好きだった人は 
 
花言葉を知らなかったのが理由で遠くに行ったのかもしれない
 
知らず知らずの内に悲しい花言葉を持つ綺麗な色の花を贈っていたのかもしれない
 
今二本目の煙草に火をつけた 
 
この感情のまま言葉を書き綴っていたいから
 
熱いコーヒーは飲まずに 静かに言葉を刻んで行こう
 
コカコーラの薄い緑色をしたビン あれなら飲めるって視的感覚に負けたやつ
 
油取り紙の使用済みのその茶色い透明感に心を奪われたやつ
 
何処が現実世界だったか忘れてしまうようなこの世界の中で
 
僕はひたすら呼吸を続ける その呼吸は僕の体の血液に溶けて とても綺麗な色になれる
 
外では閑散とまた雨の滴る音が聞こえ始めた
 
今日はギターを弾いたんだよ 大していい音も出せないのにさ
 
自分の歌を歌ったんだよ 大していいメロディーでもないのにさ
 
僕の自慢だったあの綺麗な爪もボロボロだよ
 
誰かに銃口を向けた事があるかい 手が震えるよ
 
それがたとえ臆病者じゃなかったとしても
 
外ではやっぱり雨が降っている もう怒号は聞こえない
 
自分の気持ちを怯えているとたとえて 弱さに摩り替えた僕
 
一時の感情に負けたって構わない 
 
やっぱり君が好きだ 恋なのかはわからない それでも君が好きだ
 
僕は生き物を殺した事があるんだ 大きさに関係無く
 
でもその時の手の振るえなんて覚えちゃいない
 
あの日は綺麗な満月が出ていたからね
 
その青白い光に幾分かだまされたりもしたのだろう
 
その月が下弦を描いていたならば 泣いていた
 
少女が車に轢かれて死んだのに それでもまだ恋をするくらいだもの
 
もうすぐ君に会えるね 本当にもうすぐだね
 
もうすぐだからね
 
 
 
 









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