「飛沫」
 
 
この大都会で命の尊さを感じた 靴屋から出ようとする僕達の目の前でいきなり鈍い音がした
 
次の瞬間時間がやや止まって 人達の歩みもやや止まって そこに少しの空間
 
アスファルトの上を横断しようとした女性が赤い飛沫を上げる
 
それと同時に空からは大粒のまばらいだ雨が降ってきた
 
傘を持たない僕等は軒を借りてその光景を黙視していた
 
ゴム手袋をはめた白人が女性の頭を触っている 尊さを知っている人だろう
 
たちまち車も人も大渋滞を始めた その光景を見てしまった人達は後悔を口にする
 
サイレン 人の耳を痛くするもの 人を安心させるもの
 
その女性に息はあるようだ どうやら天使にならないで済んだらしい
 
雨があがって僕達は歩き出す すぐにタバコをふかす
 
地下鉄を乗り継ぐ シャワーを浴びたいと切なに願う
 
人間として 動物としてお腹を空かす
 
僕はハンバーガーとフレンチフライをトマトジュースで流し込んだ
 
 











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