「堕落」
 
僕は希望に向かって光の中を泳いでいたんだ そこへ悪友がやって来て 僕にタバコを勧める
 
上の方から誰かの声がすると思えば それは母親の小さな警告で
 
辺りを見渡すとそこは僕の生まれ育った小さな町だった 鉄の匂いがそこら中からする
 
すごいスピードで走る僕の四輪自動車は サイドブレーキの欠片で回転を始める
 
ガードレールにはその時の痛みと痕跡がはっきりと残り フロントガラスのぬくもりはもうこなごなだった
 
気が付いたら世界はこんなに光を持っているんだと知って 白いものに目を伏せる
 
どんな涙を流せば一番今の僕に都合が良いかだなんて 考えた事無かった
 
その時の感情を僕はガラスのビンに静かに花をいけて それをぼんやりと思い出す
 
もう笑えるようになった僕は雨の明け方を一人で静かに車で走る
 
その時聞いていたラジオのピアノが フロントガラスの雨の音を消したから少しむっとして
 
赤信号のその赤色が雨に濡れたアスファルトに静かに映える
 
妙に君の顔が見たくなって携帯電話を鳴らす 君はたったワンコールで受話器を取った
 
こんな朝早く こんな雨が降っていて こんなに僕が嘆かわしいから 
 
君は僕を待っていたのだろう そう眠る事も忘れて
 
この街で死ぬことはきっと僕の中にある誰かからのプレゼントで それを受け取る事になるだろう
 
君はまだその顔を僕に見せる事が出きるのかい 僕は一度何かを失った男だ
 
誇り高き僕の創り出すビジョンは決して過去なんて気にしたりしない
 
あそこからぶら下がった一本のくもの糸が見えるだろ
 
あれを君にあげるよ 僕はここから見上げれば良いだけだ
 
もう二度と走れなくたって 空の色は今までと何も変わりはしない
 
 
 
 
 
 
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