右手の指だけ爪が長かったり 詩的な言葉を漏らしたり

助手席に座る私は ただ黙って彼を見ていた

くわえ煙草にハンドルを握り締めて その瞳遠くへ

私が引き寄せられるのか 彼が私をいざなうのか

そんな事などどうでもいい ただ身を任せるのもいいのかもしれない

私はかばんを抱きしめたまま サイドミラーと目を合わせる

信号突然のように 全て青に変わり 色彩は歩調を合わせる

彼の手 スティックを手の平で返して 私を驚かす

波打つ自然な飛沫 私の心を捉えて 目隠しの吊り橋へ

一つの努力 それすらも無駄で 

集まった花束 一輪でも綺麗な筈なのに 

まばらなヘッドライトの波 夕暮れ アスファルトの迷宮

散りばめられない宝石 それと同じ焦がされた胸

恋の終わりと始まりに正確な秒針なんて無くて

容易いが為に繊細で 脆いが為に崩れ易い

それでも降りしきる雨は誰にも止められる訳なく

人は恋に落ちる

素直になれることの過ちを 幾度も重ねて

空白の時間の中を 秒針が動き出した

ねぇ、君が好きだよ




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