「九つ」
 
人通りが余りないから笑われる事もないだろう 隣り街にしたってここからはかなり足が要る
顔を隠す必要はないけど名前は隠してる ここにはそんな人達の汗が染みついてる
 
同い年の子供は僕と二人しかいない そいつの父さんは昔船乗りで海で死んだらしい
だけど二日前の夜突然顔を出したんだ 嘘を知ったそいつは家を出たんだまだ九つなのに
 
何かを隠すかのように山々に囲まれてる 陽が早く落ちるから都合がいいらしい
灯りは通ってないから僕は早く眠るだけ 外から聞こえるささやきを聞きながら
 
物覚えがついた頃から母さんは僕に言う 父さんはいるんだよって今は会えないけれど
悪い事をした人達がたくさんいる部屋の中に 正義だった父さんも肩をすぼめてそこに居るらしい
 
母さんも昔はこの国と戦っていたらしい 誇らしげに言うんだここには逃げてきたんじゃない
少し疲れたんだって時間も無かったんだって だけど歳の離れた兄貴はここを出たきりだ
 
何かを隠すかのように山々に囲まれてる 陽が早く落ちるから都合がいいらしい
灯りは通ってないから僕は早く眠るだけ 外から聞こえるささやきを聞きながら
 
学校の帰り道いつもの橋の上に きれいに並べられた靴を見つけたんだ
手紙にはごめんなさい小さな箱には光る石 今では何もない僕のたった一つの宝物
 
忘れられた街そんな風に大人達は呼んでるんだ 僕は何も知らない知る必要すらないんだ
山向こうにある鉄柵には手が届かない 大人達はまた今夜も集い何か話してる
 
何かを隠すかのように山々に囲まれてる 陽が早く落ちるから都合がいいらしい
灯りは通ってないから僕は早く眠るだけ 外から聞こえるささやきを聞きながら



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